今年の10冊
今年も残すところあと2週間余り。恒例ですが、今年もこのエントリーを残すこととします。なお、例年のとおり、このエントリーは今年、自分が読んだ本を対象としており、新刊に限ったものではありません。
エドワード・フレンケル(青木薫訳)『数学の大統一に挑む』
数学者フレンケルによる自伝であり、ラングランズ・プログラムの研究にいたるまでの、現代数学の解説の要素を含んだ一般向けノンフィクション。最先端の数学ではどのような研究が行われているのかを垣間見ることができます。脚注を丁寧に追えば、抽象数学への見識が少しだけ深まるように思います。
訳者も物理学で博士号を保持しており、類書を数多く翻訳しています。ローレンス・クラウス『宇宙が始まる前には何があったのか?』、サイモン・シン『フェルマーの最終定理』、マーシャ・ガッセン『完全なる証明 100万ドルを拒否した天才数学者』と、今年、同じ訳者の本を4冊読みました。
フレンケルは最近、NHK教育の『白熱教室』に登場し話題となりました。第一回は見逃したものの、第二回以降を上の子と一緒に見ました。あくまで一般向けの講義であり、これでラングランズ・プログラムを理解することなど到底不可能ですが、その「難しさ」を共有することはできたのではないかと思います*1。変わった趣味で、親としてこの道に進ませたいとは思いませんが、子どもと趣味を共有し合えることはある意味幸せです。
結城浩『数学ガール ゲーテルの不完全性定理』
昨年から今年にかけ、(『秘密ノート』シリーズを含め最新刊の『ベクトルの真実まで』)全巻読破しました。数学理解に有用なだけでなく、物語としても読む程に引き込まれます。主人公は高3でもうすぐ受験。数学のネタは尽きませんが、残された時間は少ないことが少々残念です。ミルカさん、僕、村木先生など、モデルになりそうな人がいろいろと思い当ります。
上にあげた本は、自分が読んだ限りでシリーズ最高傑作かと思いました。ただしこの本は、『ガロア理論』と並び、最終章のハードルがかなり高いです。
大森英樹『幾何学への新しい視点 不確定性と非可換時空』
著者は日本数学会の幾何学賞を受賞したこともある数学者で、数多くの著作があり、大学を退いた今でも月刊誌に連載を持つなど、旺盛に研究・教育活動を行っています。この本は専門書ではありませんが、一般の人が内容を理解するにはハードルが高いです。ただし内容は理解できずとも、著者の考え方・哲学が理解でき、その人間性に触れた気がしています。
小島寛之『数学は世界をこう見る 数と空間への現代的なアプローチ』
真貝寿明『ブラックホール・膨張宇宙・重力波 一般相対性理論の100年と展開』
今年は一般相対性理論の誕生から100年だそうです。本書は一般向けに、ところどころ(御飾り的に)数式もちりばめつつ、特殊相対性理論から超弦理論など力の統一理論に向けた最新の動きまで、各章簡潔にまとめています。より一般向けの関連書に大栗博司『大栗先生の超弦理論入門 九次元世界にあった究極の理論』があり、併せて読みました。
小林哲夫『東大合格高校盛衰記 60年間のランキングを分析する』
様々なリソースからこれだけの情報を集めたことにまずは敬意。『サンデー毎日』の大学受験特集はほぼ読んでおり、東大合格高校の変遷はある程度知ってるつもりでしたが、結構知らない歴史的事実も多いものだと感じました。初版から既に10年。是非、改訂版を期待します。