ラスカルの備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

付加価値の分配と貯蓄の動向

 前回は、国民経済計算確報の資本勘定から改定後の貯蓄投資バランスの動向を確認し、長期的には国民経済計算の改定前と同様、家計部門の貯蓄超過幅がしだいに縮小する一方で企業部門が投資超過から貯蓄超過に転換し、その後の貯蓄超過幅も拡大する傾向であること、一方、近年の動きに特徴的なのが一般政府で、その投資超過幅は縮小する傾向にあり、このことが足許2015年の一国全体でみた貯蓄投資バランスの拡大にも寄与していることを確認した。本稿では、制度部門別にみた付加価値の分配から、さらに貯蓄の動向を探ることとしたい。

 資本勘定の借方に計上される「貯蓄」は、計測期間内の生産過程で付け加えられた付加価値の分配を記録する所得支出勘定において、可処分所得から最終消費支出を差し引いたバランス項目として*1一国全体および制度部門別に推計される。また所得支出勘定では、資本勘定の貸方に控除項目として計上される「固定資本減耗」と合算したグロスベースの貯蓄も計上される。よって所得支出勘定を分析すれば、グロスベースの貯蓄の増減に対する寄与度を消費・所得の増減別、および制度部門別に確認することができる。加えて、付加価値から可処分所得に至るフローの動きをみることで、貯蓄の増減に対する租税の影響も捉えることができる。

 まずは、貯蓄の増減(前年比)に対する最終消費支出および可処分所得の寄与を一国全体の勘定から確認する。グロスベースの貯蓄は、リーマンショック後の大きな変動を経て2012年から明確に増加傾向となる。この間、最終消費支出は一貫してマイナス寄与となる一方、可処分所得はプラス寄与である。

 これらの寄与を制度部門別にみると、つぎのようになる*2

貯蓄については、足許では企業部門(非金融法人企業)、一般政府部門、家計部門がそれぞれプラス寄与となっているが、特に一般政府が2011年から一貫してプラス寄与であることが注目される。さらにこれを消費・所得別にみると、一般政府の消費は貯蓄に対し大幅なマイナス寄与であり、この間、政府支出の規模が大きかったことを示している。ところがこれを大幅に上回って、一般政府の可処分所得はプラス寄与となり、一般政府の貯蓄形成につながっている。
 このように、前回指摘した経済政策の不整合という問題は、所得支出勘定の分析を通じて明確にすることができる。ただし、一般政府の貯蓄の形成と最終消費支出の縮小という事実は、支出側からみた場合、必ずしもいわゆる「公需」の減少を意味するわけではない。一般政府の総固定資本形成(いわゆる公共投資)は、所得支出勘定の中では、(最終消費支出ではなく)バランス項目である貯蓄に含まれる。政府部門が支出を増やす一方、それを上回る資金を市中から吸収していたという事実は、あくまで貯蓄投資バランスを通じ明確になるものである。

 さらに分析を続け、可処分所得(グロスベース)に対する寄与度を所得支出勘定の項目別に確認する。付加価値を構成するのは「雇用者報酬」、「営業余剰・混合所得」(グロスベース)、「生産・輸入品に課される税」および控除項目である「補助金」であるが、可処分所得は、さらに「財産所得」と「その他経常移転」の純受取分から構成される*3。なお「純受取分」というのは、一国全体にとっては海外部門からの純受取分を意味する。

 可処分所得の増減に対して一貫して大きな影響を与えているのは営業余剰・混合所得である。ところが足許では、家計部門の受取である雇用者報酬と一般政府部門の受取である生産・輸入品に課される税が増加に寄与している。雇用者報酬の増加は、本来、家計部門の消費の増加に寄与し得るものであるが、一方で可処分所得への寄与度を家計部門に限ってみると、雇用者報酬が高いプラス寄与となる一方で、所得・富等に課される経常税や純社会負担という再分配に係る項目がマイナスに寄与し、可処分所得の伸びは抑制されている。純社会負担については、リーマンショック後は一貫してマイナス寄与となり、公的年金制度に係る負担の増加が家計の可処分所得に抑制的に働いていることを窺わせる。ただしこれら再分配に係る項目は、景気後退期にはむしろプラス寄与となることから、景気変動を自動的に安定化させる仕組み(ビルトインスタビライザー)という一面も持っている。

 しかしながらその一方で生産・輸入品に課される税については、上述の再分配に係る項目とは異なり、付加価値の直接的な構成項目となっている。これが増えると、結果的に雇用者報酬や営業余剰・混合所得など民間部門の付加価値からの取り分を減じ、加えて政府部門の投資超過幅が縮小していることから、景気に対しても抑制的に働く。なお、足許の生産・輸入品に課される税の増加は、その内訳をみると付加価値型税の増加によるものであり、2014年の消費税率の引き上げが影響を与えていることは明らかである。

*1:より正確には、可処分所得から最終消費支出を差し引き、さらに退職一時金を含むいわゆる確定給付型の年金に係る負担額から給付額を差し引いた「年金受給権の変動調整」の純受取分が追加される。ただし「年金受給権の変動調整」は金融機関の支払分と同額が家計の受取分となり、一国全体では貯蓄に影響しない。

*2:制度部門のうち対家計民間非営利団体は省略。可処分所得は、「現物社会移転」の純受取分を含まない通常ベースの「可処分所得」を使用。

*3:より正確には、所得支出勘定には「所得・富等に課される経常税」、「純社会負担」、「現物社会移転以外の社会給付」という再分配に係る項目も含まれるが、これらは一国全体では制度部門別の受取と支払が相殺され、可処分所得に影響しない