ラスカルの備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

労働生産性と所得の動向(補足)

 前稿で一人当たり名目雇用者報酬(前年比)の寄与度分析を行ったが、これについて以下の2点を修正した。
 第一に、国内総生産を(付加価値法による)生産側国内総生産に統一した。
 第二に、物価の寄与はGDPデフレーターから計算していたが、一人当たり雇用者報酬の実質化を考える上で、このデフレーターを使用することは適切ではない。雇用者報酬の実質化には「家計最終消費デフレーター(除く持ち家の帰属家賃及びFISIM*1)」が用いられており、貨幣の購買力を基準とした雇用者報酬を考える上で、これを用いる方が適切である。ただしこのデフレーターは公表されていないため、これにより近い「家計最終消費デフレーター(除く持ち家の帰属家賃)」を用いることとし、寄与度分析の推計式を以下のように改めた。

 \begin{align*} \frac{w_t-w_{t-1}}{w_{t-1}} = \frac{(p_t-p_{t-1})\cdot d_{t-1}\cdot \alpha_{t-1}}{w_{t-1}} + \frac{(\alpha_t-\alpha_{t-1})\cdot p_{t-1}\cdot d_{t-1}}{w_{t-1}}\\ + \frac{(\bar{d}_t-\bar{d}_{t-1})\cdot g_{t-1}\cdot p_{t-1}\cdot \alpha_{t-1}}{w_{t-1}} + \frac{(g_t-g_{t-1})\cdot \bar{d}_{t-1}\cdot p_{t-1}\cdot \alpha_{t-1}}{w_{t-1}}\\ + \frac{(p_t\cdot d_t-p_{t-1}\cdot p_{t-1})\cdot (\alpha_t-\alpha_{t-1})+(p_t-p_{t-1})\cdot (d_t-d_{t-1})\cdot \alpha_{t-1}}{w_{t-1}}\\ + \frac{(g_t-g_{t-1})\cdot (\bar{d}_{t}-\bar{d}_{t-1})\cdot p_{t-1}\cdot \alpha_{t-1}}{w_{t-1}} \end{align*}

 w :一人当たり雇用者報酬、 p 労働生産性 \alpha 労働分配率 dGDPデフレーター \bar{d} :家計最終消費デフレーター(持ち家の帰属家賃を除く)、 g(= d / \bar{d}) :物価ギャップ)

 この変更により(実質)雇用者報酬に対する物価の寄与を適切に把握できるとともに、GDPデフレーターとのギャップ(物価ギャップ)の寄与が新たに計測される。また上式第6項を交差項に加える。その結果はつぎのようになる。

 まず第一の変更により、足許2015年の労働生産性の寄与はより小さくなる。また物価ギャップを除けば、物価の寄与は小さくなる。すなわち、物価ギャップは実質一人当たり雇用者報酬を高める方向へ働いたことになる。
 一方2014年は物価ギャップがマイナスとなり、物価の寄与は大きくなる(約2.7%)。これは消費税率引き上げのタイミングを考えれば自然である。

 物価ギャップの動きに与える要因については、この見直しを行うにあたって参照した『平成28年版 労働経済白書』では、近年、交易条件が大きな影響を与えているとしている*2

*1:FISIMとは間接的に推計された金融仲介サービスの産出額。SNAでは通常、利息収入は財産所得となり産出額には計上されない。一方、金融仲介を行う金融機関では、金融機関内取引より割高(ないし割安)な金利で利用者にサービスを提供し事業収入を得ているため、この利子の「差分」に当たる額が産出額に計上される。なお、FISIMについては以下も参照:http://d.hatena.ne.jp/kuma_asset/20151101/1446361485

*2:http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/16/dl/16-1-2_02.pdf