備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

山崎養世「日本金融再生論・民営化ではなく証券化だ−中小企業は郵政資金で救え」(中央公論 2003/10)

  • 日本の金融問題は、ほとんどがミクロの問題。いくら財政・金融政策をとっても解決されない。ゼロ金利政策などの過大な刺激策が、財政の破綻、株式市場の危機等を招いている。金融問題の最終的な解決には複雑系ともいえるシステムの再構築が必要だが、複雑さ故にコンセンサスが得られていない。
  • ここで提示する証券化を柱とする中小企業金融の改革は、そのまま郵政改革の重要なポイントを、コストをかけずに可能にする。公的金融と民間金融が一つの合理的なシステムとして動き出し、ミクロとマクロの金融行政を含めた日本の金融の「進化」をもたらす。
  • (以下略)*1

コメント この文章は結構へん。いきなり「貸し渋り貸し剥がし」とくるわけですが、そんなに資金需要が旺盛なら金利が上がるはず、というか、民間企業の資金需要は少ないことは、先日の岩田日銀副総裁の講演録にも書いてあるわけで。日本企業の利益水準が違うのは、キャッシュフローの配分がそもそも違うという面もあるのだろうし、その点は考えないわけですか。でまた「複雑系」とか言ってるし。それに財政は破綻しておりません。量的緩和政策の効果については先日の岩田副総裁の講演録に「理論的」に説明されていますが、この文章の説明には「理論的」な要素がなく説得性がない。てゆうか、「深刻な打撃」を与えた反面のプラスの効果を無視してしまっては片手落ちでしょう。郵便貯金会社が貸出に参入すれば民業圧迫って、それって前の話と矛盾していますが。だから証券化だって、それによって銀行の買い出し債権が売り出されてしまったら、いずれにせよ銀行の収益源は小さくなるような気がしますが。*2そもそも、民間企業の資金需要は少ないことは(以下略)。それにそもそも、この証券化された債券は、最終的に誰が買って(大手買取金融機関って保険会社などを想定していると思うのだが、そちらの買取ニーズを十分リサーチしているのか?あるいは郵便貯金会社にそれをやらせると?)、誰がリスクテイクするのか(その中で、劣後部分を買い取る奇特な方はいるのか?)よくわからない。米国の例にしたって、大きいのは住宅ローン債券市場であって、この件と結び付けるには唐突感がある。てゆうか、これによって最終的に儲けるのはアレンジャー(とその陰にいるアドバイザー)ということになりそうな−てゆうかそれが目的なわけですかそうですか。「最後に大事なのは、立法者、行政当局、そして金融システムの参加者がいまの金融システムの機能不全の理由を理解し」って、そりゃあんたが先でしょう。ということで、要約する程の価値は感じませんでした。*3

*1:理由は後述。

*2:民間企業の資金需要が少ないために銀行が運用難を抱えていることを前提。この場合、切り離された資産側の貸出債権に見合う負債を削減することが困難なため、証券化を行ったとしても、オフバランス効果は限られたものとなる。仮に資金需要が旺盛で運用難を抱えていない場合には、証券化によって得たキャッシュを他の貸出に回すことで収益を拡大するか、見合いの負債を削減することでオフバランス効果を得ることが可能。

*3:少しは信用乗数に効果があるだろうことは否定しませんが。ただし、今後デフレが改善し貸出需要が高まってくる場合においても、民間金融機関の貸出で十分吸収可能であろうと思われ。それにこの方、農業の競争力みたいなこともまた言ってるし。へんなの。