神田秀樹「会社法入門」
- 作者: 神田秀樹
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2006/04/20
- メディア: 新書
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- 世界的に普及する株式会社形態の特質は、①出資者による所有、②法人格の具備、③出資者の有限責任、④出資者と業務執行者(経営者)との分離、⑤出資持分の譲渡性。会社法は、株主がお金を出し、それに基づき会社の運営を決め、会社が活動するという面についてのルールを定める。会社の活動を決めるのは、株主に究極の出発点があり、会社法が会社の基本法と言われる所以はここにある。会社法の改正の動向をファイナンス、ガバナンス、リオーガニゼーションという3つの側面に分けて整理すると、ファイナンス面では戦後一貫して規制緩和であるのに対し、ガバナンス面は難解。
- 近年の会社法改正では、ファイナンス理論の取り入れ(オプションそれ自体の価値を認める等)、競争力強化のためのガバナンス、変化する会計基準との調整、ベンチャー企業育成の視点(設立時の最低資本金制度の廃止、株式の内容と株主間の関係の定めや機関設計に係る定款自由の原則)
第2章 株式会社の機関
- 会社法は、機関設計について、規模の大小*1及び公開性の有無*2で規律を分ける。機関設計に係る基本的なルールは、①全ての株式会社は株主総会・取締役が必要、②公開会社は取締役会(3名以上)が必要、③取締役会を置く場合、監査役または3委員会(指名・監査・報酬)・執行役のいずれかが必要、④取締役会を置かない場合、監査役や3委員会・執行役を置くことができない、⑤大会社では会計監査人が必要、⑥会計監査人を置く場合、監査役または3委員会・執行役のいずれかが必要。
- 会社法における機関についての改正は、①株主総会に際して株主に送る書類のウェブ開示の容認、②大会社及び委員会設置会社への内部統制システムの設置の義務づけ、③事業報告による開示の充実、④一定の要件(取締役の任期を1年とする等)を満たせば取締役会決議で配当を決めることが可能、⑤取締役等の役員個人の会社に対する損害賠償責任を原則として過失責任化。金融商品取引法は、(会社法とは別に)財務報告の観点から上場会社等に詳細な内部統制システムの整備を求めるのに対し、会社法でのそれは、経営の適正の確保と取締役の免責の観点。
第3章 株式会社の資金調達
- 会社法は、①株主間、②株主と会社債権者間、③株主と経営者間の利害調整ルールを定める。授権株式制度とは、会社が将来発行する予定の株式数を定款で定めておき、その「授権」の範囲内で取締役会決議等により適宜株式を発行することを認める制度であり、設立時は少なくとも授権株式数の1/4の株式を発行する必要があり、定款の変更により既存の授権株式数自体を増加させる場合は発行株式総数の4倍までしか増加できない(4倍ルール)。
- 新株発行時の既存株主との利害調整(有利発行の問題、主要目的ルール、債権者保護ルール)、株式という仕組み(略)
第4章 設立、組織再編、事業再生
- 会社法で認められる組織再編行為は、①組織変更、②吸収合併、③新設合併、④吸収分割、⑤新設分割、⑥株式交換、⑦株式移転。新たな会社法は、②、④、⑥の場合に消滅会社の株主等に対し存続会社の株式を交付せず金銭その他の財産を交付することを認めた(対価の柔軟化)。三角合併は、現時点で税の繰延措置が手当てされておらず、実際問題としては利用可能とはならない。
- 会計処理の整合性の確保、企業グループ法制の問題、事業再生への対応(全部取得条項付種類株式の導入)等(略)
第5章 会社法はどこへいくのか
- 敵対的買収への防衛策の導入について、経産省・法務省「企業価値・株主共同の利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針」では、①企業価値、株主共同の利益の確保・向上の原則、②事前開示・株主意志の原則、③必要性・相当性の原則、を定める。企業価値研究会報告では、良い買収と悪い買収とを決める基準は、企業価値であるべきとする。
- 「ガバナンス」の意味は、米国では経営或いは経営者に対するモニタリングを意味するのに対し、欧州では会社に係わる様々な関係者に対し経営者がどの様な「アカウンタビリティ」を果たすのかを意味する。コーポレート・ガバナンスが議論される背景として、①不祥事の再発防止、②企業の競争力、③(欧州に特有な)各国会社法の調整、といった要因があるが、最近では特に②の要因が重要。
- 会社が収益を上げられるよう法がサポートするといっても、単純な人件費抑制で収益が上がったなどというのでは、会社法の目指す理念とは異なる。変貌する会社法の下で会社が発展するためには、経営者には強い倫理が求められ、働くヒトを大切にする姿勢が欠かせない。これは、雇用政策について再考する必要性をも意味する。
コメント 会社法と近年の会社法改正を巡る動き並びに今後の展望についてのコンパクトなまとめ。会社法は会社に関わる関係者の権利義務関係を定める私法的ルールであり、会社の基本法と言われるが、例えば、従業員と経営者の関係については労働法に委ねられるなど、会社に関わるルール中のひとつのサブシステムという位置づけにある。
会社法の定めるガバナンスの目指すものが企業の競争力を高め、企業価値と株主共同の利益に資することであるとするのは重要な視点であるが、最後の章で指摘されるのは、会社法の理念は、単に会社とその株主が利益を得ることを良しとするわけではなく、従業員、ひいては国民経済全体の利益に資するものである必要があるという点である。この点は、会社の成長は、単にサプライサイドの強化だけで実現されるものではなく、マクロの総需要にも影響を受けることを考えれば、至極当然の事実であるとも言える。その一方で、会社法を巡る議論には、特に資金調達や組織再編の側面に符合するものであるが、グローバルな視点が欠かせないというのも事実であろう。
会社のガバナンスや会社は誰のものかといった議論は広くなされるが、法理念上もその考え方は様々であるようである。個人的には、メインバンク・システムが弱体化する中で、経営に規律を求める別の視点として株主や市場参加者、格付会社、会計監査人等の力を強めることには意味があると考えるし、従業員についても、「労働者」という側面と同時に字義通りの意味で会社の「社員」であるという側面が重要なってくるのではないかと考えている。*3