備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

袖川芳之・田邊健「幸福度に関する研究〜経済的ゆたかさは幸福と関係があるのか〜」

  • 主観的幸福度(=「国民生活に関する世論調査」における「生活満足度」)は、周囲との相対的比較で判断されている可能性が高く、現在の主観的幸福度と比較して論じることには無理がある。景気変動との関係では、規則的な連動はみられないものの、急激な経済状況の変化や長期的なマイナス・トレンドなどの刺激に対してはネガティブに連動。「団塊の世代」は、年齢別にみて主観的幸福度が低下する「弛み」を形成しており、当該層の年齢が高くなるために昭和40年代初頭と現在では構成するサンプルの分布が異なる。主観的幸福度は、経済的豊かさと全く関係がないわけではなく、言わば上方硬直性のある指標のようにもみえる。
  • リチャード・レイヤードに因れば、幸福に影響を与える7大要素は、[1]家族関係、[2]家計の状況、[3]雇用状況、[4]コミュニティと友人、[5]健康、[6]個人の自由、[7]個人の価値観。飽戸弘助の研究では、27の領域別に把握した満足度から、「どこの領域であれ、どこかで幸福を感じた人は全体的な幸福感や幸福感情で自分は幸せだと感じることにな」り、(レイヤードやフライの見解とは異なり、)「生活満足度」と「幸福度」には差がみられることを指摘。調査はフレーミングの効果を生むことから、「幸福度とは何か」を把握することは、実はこちらが何を問うかということと同じこと。幸福には希望や期待が含まれ、時間の概念を取り入れ重層的に捉えてみることが必要。幸福は、個々の要素の量を評価したものではなく、その適切な組み合わせによってできるライフスタイルの評価とも考えられる。
  • 国民生活に関する世論調査における「生活満足度」は、領域をフレーミングしていない浅いレベルの判断による幸福度であると推定され、このことが、1人あたりGDPと連動しなかった主な原因。将来に対する期待から得られる幸福度にフレーミングした新しい主観的幸福度を「期待幸福度」と名づけ、「現状幸福度」「経済幸福度」を加えた3つに幸福を分ける。(一対比較により分類された)「期待幸福」派は、「順調な生活の展開」「安定した社会環境」の因子得点が高く、マクロ経済環境の好転とのリンクがみられる。
  • 幸福の源泉は、物質的・金銭的なものから、今では社会的承認や仕事での評価等に移る。幸福という視点で人生をみると、仕事と余暇の区別ははっきりしたものではない。「ワークライフがライフワークである」という生き方に幸福が宿る。何かの刺激により幸福感を高めるのではなく、自分の望むライフスタイルが持続的に発展できる状況か、という点が、今後の幸福感の鍵を握る。

コメント フライ、スタッツァー「幸福の政治経済学」等の研究における「主観的幸福度」に関する研究を一歩進め、幸福を構成する要因を計量的に抽出する。その上で、これまでの研究における「主観的幸福度」=「生活満足度」は、浅いレベルでの幸福感に止まっており、社会の持続的成長と関係する「期待幸福度」がより重要であることを指摘する。
 幸福度の水準にコーホート的な特性があるとの点も、これまで十分には指摘されてこなかったものである。
 各種調査に置いては、「幸福度」「(生活)満足度」「充実度」「意欲」といった項目がみられるが、こうした調査項目を一定のフレームの中で考えることは重要。その上で、それらの指標と国民経済の厚生水準、経済成長率との関連をみていくことが必要となる。ただし、明確な「座標軸」を持たない中にあっては、検討には困難が伴う。幸福研究は、さらにまた新たな視点を生む可能性を秘めていると言えよう。