ラスカルの備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

貯蓄投資バランスは、再び貯蓄過剰の方向へ

国民経済計算(SNA)の資本勘定から推計した貯蓄投資バランス*1の2011年基準改定後の動向については、2年前に分析を行った*2。本稿では、その後の動きをフォローアップすることとしたい。

資本勘定とは、一国経済(および制度部門別)の貯蓄と投資のフローを実物面からみたもの*3で、貯蓄投資バランスは、一国経済(および制度部門別)の資金余剰(不足)の実態を示す。2年前の分析で明らかとなった主たる事実は、

  • 近年の制度部門別貯蓄投資バランスにおいて特徴的なのは一般政府であり、貯蓄に対する投資超過幅は縮小傾向。
  • 貯蓄の前年差を制度部門別寄与度でみても、近年、一般政府の増加寄与は大きい。この間、一般政府の最終消費は増加しているが、これを上回って可処分所得が増加。

ということであり、2014年の消費税率の引上げを契機として、一般政府の貯蓄投資バランス(プライマリー・バランス)は顕著に改善していることを示していた。その後2年間のデータを追加し、改めて上記の事実を確認することとしたい。

一般政府の貯蓄投資バランスは、引き続き改善傾向

まず、一国全体での貯蓄と投資の推移を名目GDPに対する比率で確認する。



貯蓄投資バランスは2001年から2007年にかけしだいに拡大、その後2010年をピークに縮小する過程にあったものの、2015年に貯蓄が大きく増加したことで再び拡大した。貯蓄は2017年にも再び拡大し、その間、投資が概ね横ばいであることから、引き続き、貯蓄投資バランスは拡大傾向であることがわかる。

つぎに貯蓄投資バランスの推移を制度部門別に確認すると、長期的には家計部門の貯蓄超過幅がしだいに縮小する一方で、企業部門(非金融法人企業)が投資超過から貯蓄超過に転換、その後の貯蓄超過幅も拡大する傾向がみられた。しかし近年は、その傾向が逆転している。ただし足許2017年の家計貯蓄率は減少した。
また近年特徴的な動きを示している一般政府は、引き続き貯蓄投資バランスのマイナス幅を縮小させており、プライマリー・バランスが顕著に改善する傾向が続いている。この事実は、名目GDP成長率が名目公債利子率を上回るという意味での「ドーマー条件」を満たすことの重要性には変わりはないものの、現時点での財政をみる限りにおいて、その危機を過度に指摘する必要性がないことを示すものとなっている。

一般政府の貯蓄は、消費税率引上げを契機に増加

資本勘定の借方に計上される「貯蓄」は、同じくSNAの所得支出勘定では、可処分所得から最終消費支出を差し引いたバランス項目として推計される(一国全体および制度部門別)。また所得支出勘定では、資本勘定の貸方に控除項目として計上される「固定資本減耗」と合算したグロスベースの貯蓄も計上される。

この所得支出勘定から、まずは可処分所得の前年比についての項目別の寄与度を一国全体で確認する。



2年前の分析で明らかにした通り、消費税による一般政府の可処分所得の増加分を含む「生産・輸入品に課される税」は、2014年に大幅に増加、2015年も同様の傾向を示し、その後安定している。「雇用者報酬」も、ここ数年の雇用情勢の改善傾向から安定した増加寄与を示している*4。これらは、一般政府および家計の貯蓄投資バランス改善の主たる要因となっているとみられる。一方で「営業余剰・混合所得」や「財産所得」(純受取)の変動は大きく、2016年はこれらの要因で可処分所得の増加率は大きく低下した。

つぎに、グロスベースの貯蓄の増減に対する寄与度を制度部門別に確認する。



一般政府の貯蓄の増減率は、2011年から一貫してプラス、2016年はマイナスとなったものの、足許の2017年は再び大幅なプラスとなった。さらにこれを消費・所得別の寄与度でみると、一般政府の消費は貯蓄に対しマイナス寄与であるが、これを大幅に上回って可処分所得はプラス寄与となり、一般政府の貯蓄形成につながっている。

すなわち全体を総じてみれば、2014年の消費税率の引上げを契機として一般政府の可処分所得は増加し、これによって一般政府の貯蓄投資バランス(プライマリー・バランス)も大きく改善したことになる。今後の消費税率の引上げスケジュールについては、こうした現状の財政のステイタスや、昨今の景気の先行き不安定感を鑑みても、再考の必要があるといえるだろう。

*1:実際の勘定(統計表)では「純貸出(+)/純借入(-)」として貸方に計上

*2:http://traindusoir.hatenablog.jp/entry/20170412/1492000796

*3:金融面からみたものは金融勘定。

*4:1997年の消費税率引上げでは、1998年以降も「生産・輸入品に課される税」が前年比でプラスとなったが、「雇用者報酬」はマイナスとなった。2014年の消費税率引上げも「雇用者報酬」の抑制には一定の寄与があったとみられるが、マイナスには至らなかった点で前回とは異なるものとなっている。