ラスカルの備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

小島武仁『マッチングの科学:理論と実践』

gogatsusai.jp

 東京大学五月祭の講演をYouTubeで聴いたので、自分なりに理解したところを記録した。
 なお、講演で用いられた資料は公開されていないが、財務総合政策研究所ホームページに公開されている資料*1とほぼ同じである。

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渡辺澄夫『ベイズ統計の理論と方法』

 2012年初版刊行。読んだのは第3章の途中までだが、この先、特に第4章は自分に理解できる内容ではない。ただし、2018年に六本木ニコファーレにて開催されたMATH POWERでの著者の講演(ニコニコ動画にて閲覧可能)では、本書の第3章及び第4章の内容が扱われており、その意図が伝わるものとなっている。

live.nicovideo.jp

 本書が志向するのは、現実世界の「真の確率分布」と確率モデルにより推測された予測分布との「近さ」に関係する自由エネルギー、汎化損失、経験損失の挙動を知ることにより、ベイズ推測に関する「一般理論」を確立することである。これを踏まえて上記の講演を聴くと、事後分布が正規分布で近似できる場合*1を扱う「正則理論」(第3章)から、さらに「一般理論」(第4章)へと進む際、ベルンシュタイン・佐藤のb関数、(統計的推測の)ゼータ関数とその解析接続、広中の特異点解消定理といった高度な数学を経由しなければならず、その過程における著者の苦闘が実感を持って理解できるようになる。

*1:すなわちサンプルサイズが十分に大きく、事後確率、すなわち平均値や分散等のパラメータの分布が正規分布で近似できる場合。

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末石直也『計量経済学 ミクロデータ分析へのいざない』

 2015年の刊行。取り上げるテーマは線型回帰に始まり、操作変数法、プログラム評価、GMM*1、制限従属変数、分位点回帰、ブートストラップ、ノンパラメトリック法と、わずか200頁の中で多くのテーマが取り上げられる。数式展開も概ね丁寧であり、それに増して、「痒いところに手が届く」記述が多い。日本語で読める計量経済学の書籍としては、現時点のベストと思われる。

*1:Generalized Method of Moments(一般化モーメント法)

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清水昌平『統計的因果探索』など

 実証分析における因果推論の「興隆」に関しては、これまでも様々な書籍を取り上げてきたが、その重要性は、もはや論を待たないものとなっている。また、2010年の「信頼性革命」以降、リサーチデザインを重視した誘導型による因果推論が高まってきたことも既に述べているが、本書が取り上げる線形非ガウス非巡回モデル(LiNGAM)*1は、これらとは異なり、あらかじめ因果のモデル(有向非巡回グラフ)を仮定して分析を行うのではなく、データそのものから因果の方向と大きさを測定するアプローチをとる(ただし、一定の数理的仮定は必要)。

*1:LiNGAMは、ノンパラメトリックパラメトリックセミパラメトリックという因果探索の3つのアプローチのうちのセミパラメトリック・アプローチに相当。

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小野善康『資本主義の方程式 経済停滞と格差拡大の謎を解く』

 日本経済は成長経済から成熟経済へと移行し、これまで、成長経済を基礎として作り上げられたマクロ経済学上の数々の処方箋は、大きな見直しを迫られている。本書で著者は、このようなストーリーを明快かつコンシステントに説明するモデルを提示し、これを基に現代の日本経済を読み解き、政策提言を行う。
 著者の書籍は、これまで、本ブログでも何度か取り上げた。特に10年前の『成熟社会の経済学』(2012年刊行)のエントリーでは、前半に同書の内容を整理したが、端的にいえば、いわゆる「流動性の罠」が常態化し、実質残高効果(ピグー効果)が成立しない経済学、というものである。本書のストーリーも概ねこれと重なり、大枠として、これに付け加えるべきことは特にない。

traindusoir.hatenablog.jp

 強いていえば、本書はモデルによる説明を重視しており、特にモデルから導出される新消費関数は、ケインズの消費関数と因果関係が逆、すなわち消費が所得を決定するものとなることから、読み手の興味を引くものである。ただし、この新消費関数に関しても、同じく10年前の以下のエントリーの中程に記載したとおり、2007年に出版した『不況のメカニズム』の中で、既にケインズの消費関数が批判されている。

traindusoir.hatenablog.jp

 2010年の「信頼性革命」を起点に、経済学では実証分析の重要性が高まったとされ、このところ話題となる書籍も、ミクロデータを縦横に活用する骨太の実証モノが中心であったように思う。待機児童問題において政策上の既成の考え方が鮮やかに反証される、といったように、実証分析の社会的インパクトは大きく、研究者にとっても魅力を感じる分野であることがうかがえる。こうした中で、本書のような理論中心の書籍を読む経験には、最近では新鮮さすら感じさせる。

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渡辺努『物価とは何か』

 物価は、直感的には「モノの値段」という風に捉えられがちだが、その本質は貨幣と商品(財・サービス)全般との交換比率、すなわち貨幣の価値を示すマクロ経済的な概念である(経済主体それぞれの購入する商品構成が異なれば、経済主体それぞれに異なる物価が構成できる)。本書は冒頭で岩井克人ヴェニスの商人資本論』で用いられた蚊柱と蚊の比喩を使い、『物価とは「蚊柱」である』と表現する。中央銀行の金融政策が目指すのは「物価の安定」、すなわち貨幣価値の安定であるが、同じ「物価の安定」であっても、「個々の価格は忙しく動きまわるけれど全体としてみると安定している」のと「個々の価格が全く動かず、その当然の帰結として全体も動かない」のとでは様相は大きく異なる。著者は、今の日本経済は後者、すなわち個々の価格が動かない「病的」な状態であるとする。

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