ラスカルの備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

上久保敏「評伝日本の経済思想 下村治 「日本経済学」の実践者」

下村治―「日本経済学」の実践者 (評伝・日本の経済思想)

下村治―「日本経済学」の実践者 (評伝・日本の経済思想)

 今の時代にあてはめるとすれば、下村治は誰にあたるのだろう、などと考えながら読みました。本書では、都留重人ほか、さまざまなエコノミストとの議論を通じ、下村治の経済学が深化する過程を中心に描かれます。
 設備投資について、回帰投資、感応投資、独立投資という投資誘因に応じた役割を分離し、経済成長における設備投資の役割を重視した高度成長前期の経済観、経済成長において重要なことは、起業家の創意工夫、新機軸への挑戦を開放的に促すことであって、自己調整論や経済計画はむしろ経済成長の足かせとなりかねないとした指摘、経済のいわゆる「二重構造」や公害問題は、経済の成長の中で解決されるだろうという見方、賃金引き上げにあたって生産性基準原理(賃金の上昇を労働生産性の上昇の範囲内とする)を採用することにより、インフレの抑制を促したことなど、ついうなずきたくなるような論点がつぎつぎとでてきます。下村の人間中心の経済観は、今でも忘れてはならないもののように思います。良きにしろ悪きにしろ、世の中の議論は常に繰り返されるものですね。
 そういえば、交易条件が悪化し、その後、世界同時不況を迎えた1980年代初期の頃の経済環境と、今の時代の経済環境は、比較的似ているように思います。経済の国際均衡と国内均衡を同時に達成すべきだとする下村の経済観からすると、今の時代はどのように映るのだろう、なんてことも考えます。