- 作者: ケインズ,間宮陽介
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2008/01/16
- メディア: 文庫
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第1章 一般理論
- 古典派の理論が妥当するのは特殊な事例のみで、その想定する状態は、およそ考え得る均衡状態の中の極限状態。現実の生活を営む経済社会の実相を表すものではない。
第2章 古典派経済学の公準
- 古典派の雇用理論の公準は、[I]賃金は労働の限界生産物に等しい、[II]労働雇用量が与えられたとき、その賃金の効用は、その雇用量の限界不効用に等しい。しかし、([II]について)現行の実質賃金がそれ以下では現在の雇用量を超える労働供給が起こらない最低水準というのは馬鹿げており、賃金財価格が上昇し実質賃金が下落しているとしても、現行貨幣賃金下の労働供給はプラスとなるのが普通。さらに、実質賃金は、賃金交渉の当事者によって直接決定されるという見方にも疑義がある。
- 貨幣賃金をめぐる交渉は、労働者集団間の総実質賃金の分配に主として影響を及ぼし、雇用1単位あたりの平均額に対してではない。後者を決めるのは、別の一団の諸力。賃金財価格が貨幣賃金に対して相対的にわずかばかり上昇したとき、この貨幣賃金と引き換えに働こうとする総労働供給とその賃金の下での総労働需要とが、ともに現在の雇用量よりも大きいなら、その時人々は非自発的失業の状態にある。古典派理論は完全雇用状態下の分配の理論とみなすのが最もふさわしい。
第3章 有効需要の原理
- Z=φ(N):総供給関数、N:雇用量、D=f(N):総需要関数とすると、D>Zである場合、企業者は費用を競り上げてでもNを増やそうとし、それはD=Zとなるまで続く。このように、総需要関数と総供給関数の交点として与えられる雇用量に対応するDを有効需要という。ところが、古典派の教義では、φ(N)とf(N)は、すべてのNで均衡する。この場合、完全雇用への障害は何もない。
- 雇用が増加すると、実質総所得も増加し、総消費も増加するが、総消費の増加は所得の増加ほどではないというのが社会の心理。消費性向が与えられると、均衡雇用水準(雇用者が全体としてもはや雇用を拡大・縮小する誘因を持たないような水準)は当期の投資量に依存する。均衡雇用水準が完全雇用よりも大きくなることはなく、均衡雇用水準=完全雇用となるのは特殊な場合。
- 富裕な社会では、豊かな成員の貯蓄性向を貧しい成員の雇用と両立させるために、十分な投資機会をみつける必要がある。また、富裕な社会では、限界消費性向が低く資本蓄積がかなり進んでいるため、これ以上の投資機会は、利子率が十分な率で低下しない限り魅力の乏しいものとなる。
第4章 単位の選定
- 経済体系を論じる際の単位を、貨幣価値量と雇用量に限定する。
第5章 産出量と雇用の決定因としての期待
- 事業の意志決定を左右する期待は、(1)完成生産物から獲得できそうだと考える価格に関わる短期期待と、(2)完成生産物を資本装備への追加として購入する場合、どのくらいの利益を将来収益として獲得できそうかということに関わる長期期待。
第6章 所得、貯蓄および投資の定義
- 売上高(A)、使用費用(原材料費等)(U)、要素費用(賃金・地代)(F)、主要費用(U+F)、補足費用(準備金)(V)、売上収入(総所得、付加価値)(Z=A-U=φ(N) )、純所得(Z-V)。所得=消費+投資、貯蓄=所得−消費より、貯蓄=投資。
付論 使用費用について
- 限界主要費用、平均主要費用と損益分岐点の関係(略)。
第7章 貯蓄と投資の意味−続論
- 「強制貯蓄」*1(ハイエク、ロビンズ)とは、貨幣量や銀行信用量の変化に端を発するもので、利子率への影響を通じて所得と所得分配が変化し、貯蓄を間接的に変化させるもの。銀行は相応の貯蓄がなくとも投資を生ぜしめるという発想は一面的であり、所得は、追加した投資率を上回る率で上昇する。大衆は、増加した所得を自由意志で貯蓄と消費にふり向け、企業者の投資の意図が大衆の貯蓄よりも速い速度で実現することはまず不可能。
- 消費を減らして貯蓄を増やそうとしても、そのような意図は人々の所得に影響を及ぼし、その結果、その意図は挫折する。集合的な経済行動の理論と、個々の単位の経済行動の理論の決定的な違い。
第8章 消費性向(1)−客観的要因
- 消費性向に影響を及ぼす主な客観的要因は、(1)賃金単位(労働単位に対する支配量)の変化、(2)所得と純所得の差分(補足費用)の変化、(3)純所得を計算する際に考慮されない意外の変化、(4)時間割引率の変化、(5)財政政策の変化、(6)現在と将来の所得水準の関係に関する期待の変化。時間割引率は、予測し得る限りでの貨幣の購買力の変化等を含むため、必ずしも利子率とは一致しない。
- 消費性向に変化がない場合、雇用が増加しても消費者は総供給価格の増加ほど支出しないので、その開きを埋める投資がなければ、雇用を増やしても利益とはならない。金融的準備(補足費用)が資本設備の維持のために現実に支出される額を超過するとき、この超過額は新投資によって埋め合わせなければならない。資本の大規模なストックを有している社会では、消費のために通常使用できる純所得に達するまで、その所得から多くの額を控除しなければならない。
第9章 消費性向(2)−主観的要因
- 消費性向に影響を及ぼす主な主観的・社会的要因は、(1)予期できない事態への備蓄、(2)予想される将来の所得と消費の差額に対する備え、(3)利子・資本所得の獲得、(4)支出が徐々に増えていくという楽しみ、(5)経済的独立、(6)投機・事業計画に対する軍資金、(7)財産の遺贈、(8)金銭欲そのもの。
- 利子率が消費性向に及ぼす影響は小さいが、消費額に及ぼす影響が小さいとは言えない。総貯蓄は総投資に影響され、利子率の上昇は投資を減少させる。利子率の上昇は、よって、貯蓄が投資と同額減少するまで所得を(投資よりも一層)引き下げる。
第10章 限界消費性向と乗数
- dY=dC+dI=k・dI、Y:所得 k:投資乗数 とすると、1-1/k:限界消費性向。限界消費性向がゼロをさほど上回らないような場合、雇用の変動は並大抵ではなく、完全雇用を達成する投資の水準は非常に大きなものとなる。(ただし、貯蓄が所得のごく小さな割合しか占めない貧しい社会の方が一層激しい変動をこうむる、というわけではなく、比例的効果は大きくても、平均消費性向も高い場合には、絶対的効果は小さくなる。)
- 公共投資が10万人の追加雇用を可能とし、乗数が4であっても、総雇用が40万人増加するとは言い切れない。その理由は、(1)公債発行による利子率の上昇により、他方面での投資が阻害されること、(2)政府の計画は、心理面への影響を通じて、流動性選好を増加させたり資本の限界効率を低下させたりすること、(3)開放体系においては、乗数効果の一部は外国の雇用を利すること、(4)雇用の増加は限界消費性向を低下させること、など。
- 非自発的失業が存在するとき、労働の不効用は限界生産物の効用よりも小さい。「浪費的な」公債支出は、差引勘定すると、社会を富ませる。
*1:09/21/06付けエントリーを参照。