備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

中北徹「国際経済学入門−21世紀の貿易と日本経済をよむ」

国際経済学入門―21世紀の貿易と日本経済をよむ (ちくま新書)

国際経済学入門―21世紀の貿易と日本経済をよむ (ちくま新書)

第1章 貿易はなぜ行われるのか

  • 比較優位は、各国の生産技術に違いがない場合でも、生産要素の相対的な賦存量に差がある場合、豊富に存在する生産要素を集約的に使って生産される財を輸出するような貿易パターンをとることによって生じる(ヘクシャー・オリーンの定理)。
  • 自由貿易は、与えられた資源が効率的に利用されるという静態的な意味の他に、経済の発展・成長を通した動態的な意味でも資源配分を改善する。1930年以降の世界的な保護貿易の傾斜は、経済の縮小均衡を招いたとする研究(キンドルバーガー)。
  • 貿易が最も活発なのは、生産要素の賦存量に差が大きい先進国・途上国間ではなく、先進国間である点*1から、生産規模の拡大により分業体制が整備され、それによって生産コストの引き下げが可能となる「規模の利益」に着目した「戦略的な貿易政策」理論(グルーグマン)が生じた。

第2章 貿易黒字はどこへ行くのか

  • 経常収支を左右するのは全て個々の経済主体の意志決定にあり、その限りでは、黒字・赤字に限らず合理的なもの。
  • 資本取引の自由化、為替レートの安定、金融政策の安定(インフレの抑止)は、本来両立しない。資本取引の自由化は進んでおり、為替レートを安定化するために金融緩和を行ったことがバブルを招いた。

第3章 円高と産業構造の調整

  • ポートフォリオ理論によれば、対外純資産が一定の額に達すると、さらに対外資産の構成を高めることのリスクプレミアムが高まるため、為替レートは円高に振れる。

第4章 企業はなぜ海外生産をするのか

  • 市場開放を実行する場合、貿易の自由化を行っても、資本や労働等要素市場の自由化を行っても互いに無差別(マンデルの代替定理)。

第5章 日本の物価はなぜ高いのか

  • 内外価格差は、寡占企業の市場支配力によるとする理論の他に、規制産業と非規制産業が併存するときに、労働コストの上昇が要因となって生じるとする理論がある(バラッサ=サミュエルソンモデル)。
  • 実質賃金が労働の限界生産力と等しい場合、貿易財の価格には国際的な裁定が働くから生産性上昇率が高い国ほど賃金が高くなる。しかし、労働力の国内移動の結果、国内のセクター別の賃金は平準化し、非貿易財の生産性に差がない場合、非貿易財の生産コストは貿易財の生産性が高い国ほど上昇する。この場合、貿易財の生産性が一律に上昇すると、貿易財の価格が変わらなければ非貿易財の相対価格が変化し、生産性の上昇に応じて賃金が上昇すれば、労働需給の逼迫により非貿易財セクターの賃金が上昇し生産コストが上昇する。いずれにせよ、内外価格差は生じることとなる。

第6章 消費者と消費者運動

第7章 豊かな生活のための政治経済学

  • 社会の高齢化が高まると貯蓄率が下がることは避けがたい。1980年代日本の経常黒字が拡大したとき、社会インフラの整備に全力を傾けるべきであったが、この政策は実行されない。
  • 55年体制」は、キャッチ・アップという明確な目標には好都合であったが、低成長期においては、経営の重点を大転換する必要。

コメント 経済の見方は、前出書(2/20)の場合とさほど変わらないのだが、前出書が有効需要の不足や流動性選好の問題を重視するのに対し、本書では、有効需要の不足よりも「供給サイドで発生している調整コスト」をより問題とする。その結果、供給サイドの効率性によって過剰となる労働側から、消費者側へ利益が移転することが、資源配分の改善(パレート改善)であるということになる。

*1:レオンチェフの逆説」とよばれる。