ケインズの予言 (PHP新書―幻想のグローバル資本主義 (079))
- 作者: 佐伯啓思
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 1999/06
- メディア: 新書
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ケインズに関する「オリジナル」な解釈
序章および第1章のみ通読。スミスとケインズについて、ナショナル・エコノミーを重視する一方、それを素通りするグローバル・エコノミーに対する批判者として捉え直すというもの。最近、個人的には、「オリジナリティ」という言葉が琴線に触れるのだが、スミスやケインズに関するこのような解釈も、ある意味、オリジナリティと呼ぶことができるのだろうなぁと思う。*1
本書では、金本位制による国際的な貿易の調整メカニズムについて、国内の物価(・賃金)水準が絶えず変動することを許容することで達成されるものであるとする。また、そのシステムに不全が生じた理由を、英国が国際収支の黒字を海外投資に当てたことに求めている。
資本の海外流出は国内投資を収縮させ*2、さらに為替レートの下落を利子率の引き上げで相殺することは、国内経済にデフレ圧力をかけることになる。このため、ケインズは、過剰な海外投資に批判的であったことが指摘されている。「一般理論」では、有効需要量が完全雇用産出量に満たない水準に留まるところで経済が均衡するため、総需要を喚起するための投資の拡大が重要視されており、この観点からすると、資本の海外流出は、国内需要を縮小し、失業を発生させるとともに、金本位制の調整メカニズムにも不全を生じさせ、近隣国の窮乏化にもつながることになる。金本位制については、流入した金を不胎化させることによって、金流出国の通貨供給量を必要以上に引き締め、デフレに至らせることが指摘されているが(岩田編著「昭和恐慌の研究」など)、本書の立場は、むしろそれが格差の拡大につながる点を問題視している。
金本位制の下でのグローバル経済に本質的な問題があることは事実であろうし、それが国内投資を不足させ失業の発生につながる懸念も重視すべきものである。しかしながら、このことをグローバル・エコノミー全体の問題に一直線に繋げる手際には違和感を感じた。グローバル・エコノミー全体の問題を論じるのであれば、少なくとも、貿易の自由化のもたらす利益と国際金融(あるいは、金融自由化)の問題は切り分けて考える必要があろう。
(そのほか、些細な議論の展開に違和感を感じ、これ以上、先に進む気分にならず。また、例のごとく、「貨幣は貨幣であるがゆえに貨幣だ」みたいなポストモダンっぽいつまらない話も出てくるが、悪いけど、「一般理論」第17章の貨幣論の方がよっぽど奥が深いと思う。)