備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

06/12付けエントリーに関連して、跡田直澄、高橋洋一「郵政民営化・政策金融改革による資金の流れの変化について」

  • 財政赤字を考慮した潜在的国民負担率は、負担面から見た公的部門の大きさを示す指標。一般的に、公的部門のウェイトが過度に拡大すれば、経済全体の生産性が低下する可能性。OECD諸国間の潜在的国民負担率と経済成長率の間には緩やかな負の相関。
  • 郵政民営化の理由は、小泉首相が自ら書いたとされる文章によれば、①資金の流れを変える、②よりよいサービス、③公務員削減、④財政貢献(郵政公社は、法人税、法人事業税、固定資産税を支払っていないこと等)。諸改革(郵政民営化、政策金融改革、特殊法人改革、財投改革)により、資金の流れが変化。資金の流れは、経済活動と表裏の関係にあり、これを見ることは、政策課題を検討するための大きな方向性を示唆。*1
  • 郵貯が民営化されない場合、運用は基本的に国債等に限定され、その場合、どの様な経営努力をしても人件費などの利鞘を稼ぐことは金融理論上不可能。2001年の財投改革により、郵貯は自主運用が行えるようになったが、一方で市場原理に組み込まれ、運用利回りを上げるために信用リスクをとらざるを得ず、必然的に「民営化」を強いることになった。

コメント 郵政民営化の意義について、「資金の流れを変える」ことの側面から論じたもの。郵政民営化を拙速に行うことはハードランディング路線であり、郵政公社の改革(ナローバンク議論の検討を含む*2)を時間をかけて実施すべきとの意見にも一理あるが、民間金融機関とのイコール・フッティングを確保し、オープンで透明かつ競争的な市場経済を再興することもまた重要か。*3なお、財投改革後の郵貯簡保の自主運用について検討された資料(中間報告最終報告)があり、その中で、ALMやポートフォリオ管理の実施、準備金制度の創設に向けた検討等が指摘されている。

*1:ベースとしては、「改革と展望」のシナリオを基に試算。

*2:実際、民間金融機関にしても、運用利回りの拡大よりもむしろ手数料収入の拡大を志向しているようなところがある。

*3:例えば、郵便事業の公社形態は継続するが、将来的に郵貯ナローバンク化し簡保は廃止するとした前提に立って、時間をかけて公社の改革を進めることに問題ない。しかしながら、公社形態の優位性を保ちつつ、民間金融機関と同じ事業に進出しようとする現在の生田郵政公社のやり方には、賛同しかねるものがある。つまり、公社の改革か郵政民営化かとの議論は、将来的な事業の姿がどうあるべきかとの議論と直結する形で行う必要があるような気がする。