現代の貧困―ワーキングプア/ホームレス/生活保護 (ちくま新書)
- 作者: 岩田正美
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2007/05/01
- メディア: 新書
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第2章 貧困の境界
- 貧困の歴史は、貧困の境界設定に関する議論の歴史。ラウントリーの研究では、人間の生存の費用(単なる肉体的能率を保持するために必要な最低限度の支出)に基準を置くが、タウンゼントは、標準的な生活様式からの脱落(社会的剥奪)を用いる。
- 日本の生活保護基準は、マーケット・バスケット方式による「絶対的貧困」から、相対的貧困基準に徐々に転換。一般国民の消費水準との相対比較に基づき格差を縮小しようという「格差縮小方式」は、平均賃金の6割を目標としたが、1983年にそれが達成された後は、現在の「水準均衡方式」に移行。「6割」水準には根拠がなく、経験的なもの。
第3章 現代日本の「貧困の経験」
- エスピン・アンデルセンは、一時の貧困は大した問題ではないと言い切る。パネルデータによる分析では、一時貧困は貧困線のボーダーライン上にあり、その様に言い切れるかは疑問。いわゆる格差社会は、貧困に閉じこめられた持続・慢性貧困と安定層との亀裂が大きくなるだけでなく、その周囲から離れられない不安定層を生み出す社会。
- 女性の貧困は、結婚し子供が無く本人が常用で働き続ける場合に最も貧困経験から遠く、単身・離死別・子供3人以上で貧困固定化の危険が大きい。
第4章 ホームレスと社会的排除
- 日本のホームレスは中高年男性に集中し、中小企業の工場や店舗に勤めていた人たちが多い。(90年代のリストラに伴うケースは少ない。)
第5章 不利な人々
- 現代日本で貧困に陥る可能性が高いのは特定の人々(低学歴、未婚・離婚、離職・転職等)。
第6章 貧困は貧困だけで終わらない
第7章 どうしたらよいか
- 特定の人々が不利になるのは、今日の社会が低学歴や離死別を貧困に転換する「装置」であるから。その要因は、(1)ポスト工業社会やグローバリゼーションに伴う労働市場の変化と、(2)福祉国家の制度自体がある人には有利に働き別の人には不利に働くこと。
- 経済さえ活性化すれば貧困は解決するとの見方は楽観的。貧困の価値判断は人道主義や平等主義から導かれることもあるが、社会の統合や連帯という観点から導かれることもある。
コメント 格差社会という言葉からは見えてこない現代の貧困についての分析。貧困は特定の属性に偏る傾向があり、こうした論点は、貧困研究の意義は現代においても失われていないことを示す。貧困には価値判断が伴うため、それを議論する上で様々な困難に直面する。困難はあるものの、貧困を考える上で(経済政策だけではなく)社会政策もまた必要性であることを「貧困の偏り」という事実は根拠付ける。また、その「根拠付け」に当たっては、社会の統合・連帯という観点もあることを指摘する。(この「社会の統合・連帯」を「人権の論理」或いは「正義」という観点からどう整理するかは別途考える。)
なお、ホームレスが90年代に急速に増えたこと等は、経済の循環的側面に伴う面もあろう。低学歴が貧困に結びつきやすいという事実を基に、貧困の主因をポスト工業社会やグローバリゼーションに求めているが、このような傾向は今に始まったという訳でもなく、議論の整理が必ずしも十分であるとは言えない。(貧困と経済成長との関係を論じるマクミラン「市場を創る」の第16章なども併せて読むことをお進めしたい。)