コメント 備忘録的にチェック。*1①職務が通常の労働者と同じであり、人材活用の仕組みや運用等も通常の労働者と実質的に異ならないパートタイム労働者については、同一の処遇決定方式等により均衡の確保を図り、②職務は通常の労働者と同じであるが、人材活用の仕組みや運用等が通常の労働者と異なるパートタイム労働者については、意欲、能力、経験、成果等に応じた処遇に係る措置等を講じるというのが、現在における「均衡処遇」の問題圏。ただし、これは必ずしも機能しているとは言えないらしい。賃金には、外部労働市場で個人の属性・技能に応じて決定される要素とともに、企業における利益配分機能の要素を持つので、社会全体ではなく、あくまで企業内での「均衡処遇」である点は当然。また、正規従業員の長期的・安定的な雇用システムが存在し、新規学卒を中心とする正規従業員の労働市場と非正規従業員の労働市場が分断されていることも事実。このような前提に立てば、インサイダー・アウトサイダー理論や効率賃金仮説等の(ニュー・ケインジアン的な)含意から、正規従業員の賃金水準が「公正」な賃金水準以上に高まることは、理論的に説明可能。
加えて、正規従業員の賃金が「公正」水準よりも高いとしても、労働生産性の向上(ひいては経済成長率の向上)という観点から、そのことを正当化できる。あり得べき能力形成とは何かという視点に立つと、企業における人材育成機能を「外部化」し、外部労働市場の機能を強化して、強制的に社会における「均衡処遇」を確保するといった方策にフィージビリティは感じられず、企業の労働者に対するコミットメントを確保し、その下で、(企業特殊技能を含む)労働者の技能形成に向けたインセンティブを高めることが、労働生産性を高める上で最も効果的なプロセスであるように思われる。*2(その意味で、正規従業員の雇用保護規制が相対的に高まったことが、非正規従業員の増加の背景にあり、前者の規制を緩めることが重要とするOECD的な処方箋には疑問。)ただ結局、この視点からは、企業に対しては若年層へ正規的な雇用機会を提供することを、また、若年層に対しては長期的に能力形成を図り所得を確保していく上で企業における正規的な働き方が重要との意識をもつことを促す、といった方策しかでてこないところがorz...
景気回復過程における格差問題に関しては、外部労働市場が労働力の「質」の高い層と低い層に分断されている場合、景気回復過程において企業は後者の上位層を前者の階層に含めてくることから、賃金上昇圧力は後者の方で大きくなり、格差は縮小する(島田晴雄「労働経済学」*3pp.122-124)。実際、比較的安定的な一般労働者の賃金水準と比較して、外部労働市場の影響を受けやすいパートタイム労働者の賃金水準は、景気回復過程での上昇率が大きくなる。つまり、理論的には、マクロ経済政策による総需要の喚起は、労働力の「質」の格差にともない生じる賃金格差を縮小し、逆に、長期的・安定的な雇用システムの機能低下にともなって生ずるであろう労働生産性の低下(コミットメント・モデルからの含意)は、経済成長率を経由して、(別の形で生じているであろう)労働力の「質」の格差にともない生じる賃金格差を拡大する。
ただし、景気回復下にある最近の就業形態の変化をみると、企業の新規学卒への採用意欲は高まっているものの、正規従業員は減少し比較的労働時間の長い非正規従業員が増加している。つまり、賃金水準(及び労働時間の長時間化にともなう職業能力形成機会)は高まっているものの、いわゆる「就業形態の多様化」の進展に変化がみられるわけではない。このような傾向が先々も続いていけば、将来的には、長期的・安定的な雇用システムは崩壊し正規・非正規という区分自体が機能しなくなる程雇用形態が多様化することもあり得るのか。また、そのような場合、社会全体でみた労働者の職業能力水準の確保はどのように図られるべきか。いやいや、非正規従業員が増加しているのはヒステリシスの効果が働いているだけであり、正規従業員はいずれ増加に転じるのか...等々疑問は深まる。
最終的には、「定常型社会」派と、「持続的な成長」派というところに、議論の道筋は行き着くような気もしないではない。
(追記)まだ続いてまつね。デフレが収束し景気回復傾向にある場合の「均衡処遇」(能力開発機会格差の縮小のため、企業に正規雇用の増を促す意図での)は、長期的に労働生産性を高め得るが、デフレ期の「均衡処遇」(求める内容にもよる)は、むしろ失業増に繋がるということなんでしょうけど。「待てない人」ってやはり世の中にはいるということでつね。
*1:「教科書嫁」キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!! 注)「嫁」批判ではありません。
*2:コミットメントの重要性については、11/01付けエントリーの本も参照。
*3: