同誌は大竹さんの主張を支持してまして、規制緩和があってドライバーが賃金低下ながらも職をえたことが日本の所得格差を縮小しただろう、と書いてます。なぜならそうしないと彼は失業しただろうからと。同誌は基本的に雇用の流動化が日本経済を停滞から脱したという貢献を認めてますので、これは過去のエントリー(URL略)に書いたように私やモリタク先生とは基本的な認識が違うのです。はたからみたらすごくわかりにくいかもしれませんが。簡単にいうと不況の原因判定の差異でして、規制緩和で不況が改善すると考えるか、考えないかの違いともいえます...
橘木先生はさらに若年層でいったんパートやアルバイトになったものが正社員になることが難しい日本の労働市場の問題点を批判しています。この後者の問題については、今月の『Voice』に拙稿を寄せましたが、景気の拡大=リフレ過程の継続があれば正社員としての雇用も増加してくるだろうと予想しています。
コメント 新規学卒を中心とする日本企業の「定期採用」の仕組み*1は、長期不況期にディーセントな雇用機会を得られなかった者が、結果的に、低い職業的技術・能力に留まる問題と併せて、景気回復過程にあっても(粘着的に)不安定な就業に留まり、「階層化」と呼ぶに等しい状況を生み出していることの原因であるように思われる。その意味では、従来の「定期採用」の仕組みや職業能力形成の仕組みに何らかの変化が生じることで、こうした者が教育訓練の機会を得、また、非正規的な働き方でも企業の能力評価システムの下で、キャリアとしての一定の評価を受けることができるようになれば、それはそれで有意義なんじゃないかなとは思う。無論、持続的な景気回復(と、それに伴う経済主体の期待の変化)により、正社員としての雇用、つまり「質」の高い雇用機会が増加するのは当然であり、上記の問題は、あくまで「履歴効果」(と、景気回復の恩恵が及び難い層への配慮)に関わる話である。
加えて、格差問題の観点から考えた場合により重要なのは、持続的な景気回復に伴う失業率の低下である。正規雇用と非正規雇用の格差は、「公正」の観点から重要な問題であるが、就業者と失業者の間の格差は社会問題であり、より強調されてしかるべきであろう。*2後者の問題は、直接的に世帯間の所得格差に繋がる。最近の持続的な景気回復は、失業率の低下を経由して、明らかにジニ係数を低下させることに作用している。
一方、非正規雇用と正規雇用との均衡処遇に向けた取り組みについては、企業の総額人件費が決められている中では、雇用の削減やより不安定な雇用機会の創出にしかならないという実務的な見解*3がある。企業の総額人件費そのものを増やすことで、より付加価値の高い雇用機会を増やしていくには、持続的な景気回復が必要不可欠ということ。
この最後の点を踏まえると、規制緩和(雇用の分野で言えば、雇用保護規制の緩和)が不況を改善するのか否か、*4という問題はより重要性を帯びてくる。これらの施策が持続的な景気回復に繋がれば(大竹説?)、失業を減らし、より付加価値の高い雇用機会を増やすことで、所得格差は縮小する。しかしながら、規制緩和が、将来の不確実性を高め、従業員のインセンティブを低めることで*5、ひいては、個人消費や企業の景況感にも悪影響を及ぼすと(森永=田中説?)、そのシナリオは成立せず、むしろ不況と所得格差の深刻化をもたらすだろう。(07/04/06修正)
*1:野村正實氏による11/09/05付け文章参照。
*2:ただし、若年非正規の問題は、後者の範疇に加えて検討すべき問題かも知れない。
*3:労務屋さんによる06/03/06付けエントリー参照。また、07/04/06付けエントリーも参考になる。
*4:ただし、非正規雇用の処遇を高める場合と異なり、この場合には、少なくとも、雇用の削減や不安定雇用の創出といった不効用は生じない。
*5:公平賃金仮説からの含意。