総需要の見込みから予測される就業者数の今後の動向を、今回久しぶりに推計してみた。推計方法は以前と同じであり、ESPフォーキャスト調査の2014年7月結果から、まずは、エコノミストコンセンサスに基づく経済成長率の予測を単純にあてはめた実質GDPの水準を計測する。
先日公表された通り、2014年第2四半期は消費税増税にともない実質消費支出が大きく低下したことを反映し実質GDPの水準は低下しているが、エコノミストコンセンサスによれば、その後は再び上昇過程に戻り、これまでのトレンドに概ね沿った動きとなる。
つぎに、就業者数をGDP就業者関数に基づき推計する。
まず、2013年第2四半期以降のデータを追加したことによるGDP就業者関数の変化を確認すると、就業者数(一期前)、実質GDPの係数はほとんど変わらなかったが、生産性向上効果を加味するために加えたタイムトレンドの係数(絶対値)が縮小したほか、切片が約1.25ポイント低下している。
この関数をもとに、総需要の水準から見込まれる適正な就業者数を推計し実際の就業者数と比較すると、2012年後半以降の就業者数は、総需要の水準から見込まれる適正水準から大幅に乖離し上昇していることがわかる。
なぜこのような乖離が生じているかはわからないが、一つには、「想定」以上の需要増加期待を企業がもっていることが考えられる。将来、総需要が上方シフトするとの見込みがあれば、企業は現時点で、生産要素である雇用を増加させる。ただし、国内的には人口減少が進み、総需要の上方シフトがあるとすれば、海外需要の国内生産による取り込みが中心となろう。あるいは、少子高齢化が進むことで需要が増加するサービス分野で雇用が増加していることも考えられる。もう一つは、期待インフレ率が高まり実質賃金が将来的に低下するとの見込みから、他の生産要素からの労働力への代替が生じつつあることが考えられる。
いずれにしても、書いてはみたもののあまり説得力が感じられない。ここで推計している適正就業者数は、2002年第4四半期を起点にGDP就業者関数からその時々の需要水準に応じて内生的に推計したものである。ちなみに、この起点を1994年第4四半期に変更して1995年以降の推移をみるとつぎのようになる。
2012年後半以降、雇用情勢は劇的に改善しているが、それを説得的に説明できる分析は管見の限りでは見当たらない。しかしながら、同様の就業者数の適正水準からの乖離は過去にもみられる。いまの経済環境は、GDP就業者関数から推計される就業者数の適正水準以上に雇用をドライブさせるものである可能性があり、需要主導ではない形で、雇用をドライブさせる何らかの要因を経済システムの中から見つけ出すような分析が必要であろう。