ラスカルの備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

根井雅弘「経済学のことば」

経済学のことば (講談社現代新書)

経済学のことば (講談社現代新書)

第1部 古典派経済学のことば−経済学の生誕前夜からマルクスまで

第2部 近代経済学のことば−近代経済学の誕生からケインズ革命前夜まで

第3部 現代経済学のことば−ケインズ革命から現代経済学へ

コメント 主要な経済学者の「ことば」は、実際のところ、このように簡潔にまとめることはできない奥行きを持っているのだろうが、素人的に経済学史を俯瞰する上では良書と言えるのではないか。内容は多岐に渡り、要約することはできないが、例えば、①スミスは「独占」に対し厳しい一方、「労働者」に対する眼差しは暖かく、「シカゴ派」的な経済観とはかなり異なっていること、②古典派経済学は、「投下労働価値説」「差額地代論」*1「賃金の生存費説」*2「収穫逓減の法則」の4つの原理を唱えたリカードにより概ね完成されたこと、③新古典派は、価格を商品に内在する価値とは別に、限界効用に結びつけたジェボンズメンガー等に端を発すること、④ケインズの「有効需要の原理」には、ステュアート、マルサスという先駆者があったこと、⑤カルドアは、信用−貨幣経済化においては貨幣供給量が貨幣需要に応じて決まるという「内生説」を唱えた(他方、貨幣供給量が中央銀行によって決定されるというのが「外生説」)が、これが正しいとすると「マネタリスト」の主張を危うくし、「内生説」「外生説」の対立には決着がついていないこと、といった知見が容易に得ることができる。
なお、著者は、マルクス、ヴェブレン、ガルブレイス、ボワイエといった、「異端派」的な経済学者への目配りも欠かさず、またボワイエ(レギュラシオン学派)を扱った章では、「歴史的にこうだったというような理論には全く意味がない」と言い放った経済学者が「多様性」に寛容でないことに疑義を述べるなど、一定の理解を示している。ただし、この点については、経済学が将来に向けての理論であるならば、ルーカス批判以後の現代においては、当該経済学者の意見にも一理あるかとは思う。*3

*1:穀物の価格は、最も生産性の低い土地での生産費により決まる。

*2:賃金は、自然賃金=労働の自然価格に収斂する。

*3:このように整理した上で、実のところ最も念頭に残っているのは、ケインズの章における「不確実性」(=リスク?)と恐慌に係る話とコースの章における「取引費用」概念。これらは、「金融商品」に係る話を整理する上で、何らかの示唆を与えてくれている。