ラスカルの備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

畠山清行「何も知らなかった日本人 戦後謀略事件の真相」

何も知らなかった日本人―戦後謀略事件の真相 (祥伝社文庫)

何も知らなかった日本人―戦後謀略事件の真相 (祥伝社文庫)

日本の戦後政策の背後関係

 本書は1976年に刊行されたものの再刊。昭和裏面史に係るこの手の本は、一度読み始めるとなかなか止まらない。
 ロッキード事件が表面化したことの背景には、韓国の朴政権転覆を画策するCIAの工作があったとしている。また、GHQ参謀2部配下のキャノン機関は、真相がはっきりしない戦後の幾つかの事件に関与しており、その組織はCIAに引き継がれ、その諜報の技術は「現在」ではかなり洗練されたものになっているという。著者の危機感は、朴政権と我が国政財界の癒着が明らかにされ、南北朝鮮が統一されたとき、日韓の間に戦争が生じ、我が国が危機にされられるのではないか、というところにある。特に、児玉誉士夫に対する評価は低く、その「売国的行為」を強く批判している。
 なお、本書の内容は、多くの点で柴田哲孝「下山事件 最後の証言 完全版」の内容とかぶる。

下山事件完全版―最後の証言 (祥伝社文庫 し 8-3)

下山事件完全版―最後の証言 (祥伝社文庫 し 8-3)

 例えば、212頁に引用されているアサヒ芸能記者によるキャノンの証言では、下山事件に関してある人物の名前が出てくるが、同書でも同じ文章が引用され、この人物が「矢板玄」であることが明記されている。同書では、畠山清行のこの本に関して、『「信用度が低い」という噂があった』と述べる一方、下山事件に関する部分だけはリアルであり、それは著者の親族である関係者のインタビューによって裏付けられたとしている。上記のキャノン機関とCIAとのつながりについてもより突き詰めて検討されており、いわば伝説化された「キャノン機関」というものの本当の姿を描くことに成功しているようにも思われる。

 同書には次のような記述がある。

 「X某」は実行犯グループと目される亜細亜産業に頻繁に出入りし、G2のウィロビーやキャノン中佐とも密接に交友していた人物である。飯島によると「X某」は下山総裁を「裏切り者」と呼び、「殺してバラバラにしてやる」と公言していた。運輸省鉄道総局時代からその利権に深く食い込み、小千谷発電所の入札やその他の公共事業の中止で莫大な損失を被った人物であり、松川事件でもその関与が噂された。

 「アカは結局最後には裏切るんだよなぁ」という文中の矢板玄の発言、その自伝における下山事件に関する記述、自分の会社を四元義隆に無償で譲渡したという事実等も併せてみれば、少なくとも著者はこの「X某」とされる実行犯を「田中清玄」にみていることは明らかなように思う。

 同書にある矢板玄へのインタビュー、そして事件の真相に関する決定的証言となっている飯島進の証言が実際にあったものなのが、それとも著者の作り話なのかは判然としないのだが*1、この事件の裏側には国鉄利権、そして国鉄民営化に向けた動きがあり、ドッジ・ラインや米国対日協議会(ロバーツ、デイビス「軍隊なき占領」など)がやろうとしていたこともそれと関係するといった話には言い知れぬものがあり、ロマンを掻き立てられる。

軍隊なき占領―戦後日本を操った謎の男 (講談社プラスアルファ文庫)

軍隊なき占領―戦後日本を操った謎の男 (講談社プラスアルファ文庫)

 下山事件をぬきにしても、日本の戦後経済政策の「リアルな実相」について、より整理された仕事が必要なのではないかと思う。

*1:これが仮に「作り話」であったとしても、この手のノンフィクション物においてこうした捏造を行うことは、むしろオーソドキシーに属することなのかも知れない。よく見かける「関係者に迷惑がかからないよう、関係者の死後に公表する」といった話も、違った解釈が可能である。自分の知る別の作品でも、事実とは異なる内容が(訴訟にならないよう巧妙な検討を加えた上で)記述されており、しかもその捏造された「事実」がマスコミ等で取り上げられ、世間ではもはや「真実」として流通している。しかし重要なことは、こうした捏造がどのような目的に適うものなのかである。仮にその記述がそのまま真実ではないにしても、物事の「キモを掴む」要素につながっている限りでは、そうした捏造に対する人の許容度もまちまちである。一方、事実を「ねじ曲げる」ような捏造の仕方は、大いに批判されてしかるべきであろう。同書の場合も、公表することのできない別のエビデンスが他にあり、その代わりに(あるいは、エンターテイメントの一つとして)事実の捏造が行われている可能性が高いと個人的には思う。