- 作者: 安達誠司
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2007/02/01
- メディア: 単行本
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- スヴェンソンは、①一定の上昇トレンドを持つ物価水準目標の時間的経路を設定(若干プラスの長期的インフレ目標)、②現実のインフレ率が目標インフレ率を下回る限りある一定割合で通貨が減価していく段階的為替レート目標の時間的経路を設定、現実のインフレ率=目標インフレ率に到達した時点で為替レート水準は一定水準にペッグ、③物価水準目標経路達成時に為替レートペッグは放棄され、通常のインフレ・ターゲットに移行、という「コミットメント」重視のデフレ克服策を提案。
- 一般的な円安誘導策は、輸出拡大によるGDPギャップ縮小→インフレ率縮小を目指すものであるが、スヴェンソン提案ではそのような経路は副次的であり、中央銀行の約束を担保する手段として円安誘導を用いる。
第1章 デフレは終わったのか
- 我が国の信用乗数は下げ止まりつつあるが、(借入需要の高まりによる信用創造の拡大に伴うものというよりもむしろ、)金融不安が払拭されたことにより、金融機関が取り付け騒ぎに備えて現金を積み増す必要が無くなったことによるもの。(ミクロの)企業再生がマクロ経済の再生を意味するわけではなく、輸出ドライバーとなるはずの中国向け輸出が伸びたのは2003半ばまで。
- 中小企業の業況判断は株価に遅行して変動し、また、企業の中長期的な実質潜在成長率は期待インフレ率の動きに遅行する。一方、期待インフレ率の上昇に先行して動いていたのは日銀の量的緩和政策。GDPギャップに連動する「インフレ先行指数」を推計すると、実質為替レートの動きが「インフレ先行指数」の大部分を説明する。
- 日本経済が完全にデフレを脱却するためには、1ドル125円程度の円安が今後2年程度続くような金融緩和策が必要。
第2章 「円の足枷」とは何か
- 円ドルレートの円安の上限の目処が企業物価ベースの購買力平価であることについて、マッキノン・大野は米国の対日通商圧力の「トラウマ」にその原因を求めた論を展開(円高シンドローム説)。先進国間の長期金利はある一定水準に収斂しつつあるが、日本だけが突出して低く、この要因をマッキノン・大野では長期の円高・デフレ期待が存在するためとする。
- 円ドルレートに関する限り、先に米国の期待インフレ率が決まり、これに従い円ドルレートが決定され(円の足枷)、この円ドルレートのトレンドに沿った形で日本の経済ファンダメンタルズが決定されるという因果関係の存在が確認される。(円ドルレート→日本の金融政策)
第3章 為替レートの行方を探る
- ミシュキンの分析では、デフレからインフレへの転換局面で期待インフレ率が急激に上昇し、この局面において実質金利の形成メカニズムがこれまでと大きく異なる可能性に着目。日本の実質金利モデルを用いて構造変化テストを行うと、2003年半ばに構造変化が起こったことが示されるが、2004年になると再び下の政策スタンスに戻る。
第4章 新ブレトンウッズ体制とは何か
- ドゥーリーらの提唱する2000年以降の「新ブレトンウッズ体制」のメカニズムでは、①米国の内需が世界経済の成長を支え、②その代償としての米国の経常赤字を周辺国の公的外貨準備が支え、長期金利を低位安定させることでさらに米国の高成長を支持、③自由な資金移動により先進国の長期金利は平準化、④(従来は一次産品産出国であった)新興経済圏における製造業の発展が一次産品の高騰を招き、これらの国の経常収支黒字を拡大させる。
- クルーグマンの指摘した「サスティナビリティ問題」の要諦は、米国の名目成長率が名目長期金利を上回っている限り米国は対外債務の利払いが可能であるが、1980年代にはこの条件を満たしていないというもの。しかし、S&L危機脱出後の米国ではこの問題は完全にクリアされている。
- 「新ブレトンウッズ体制」における世界金利の平準化と低位安定は、資源国及び中国等の新興経済圏の外貨準備と日本の量的緩和がもたらした効果と考えられる。中国が本気で内需主導の経済成長を図る場合、これまで外貨準備として運用・蓄積されてきたマネーを内需拡大のために使用する局面に入ったことを意味する。これを日本が肩代わりすることは、経常収支黒字のさらなる拡大・国内の貯蓄超過の継続を意味し、日本のデフレギャップは拡大する。
第5章 「円の足枷」のマネーフロー
- 日銀当座預金が30兆円あまり積まれる局面で従来コール市場での資金の取り手であった国内金融機関が資金余剰主体となり、新たに外国銀行が資金の取り手として登場。①2001年の量的緩和以降在日外国銀行本支店勘定と日経平均株価との間に高い相関性がみられ、②2003年以降の日本国籍の金融機関によるオフショア向け対外ポジションが大きく流出超に転じたことから、円キャリー・トレードによる資金が国内に還流した可能性が傍証される。一方、在日外国銀行本支店勘定と商品市況との相関は高くない。
第6章 イデオロギーとしての「円の足枷」
第7章 「円の足枷」を克服せよ