備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

ロバート・フランク“Falling Behind”(その1)

Falling Behind: How Rising Inequality Harms the Middle Class (The Aaron Wildavsky Forum for Public Policy)

Falling Behind: How Rising Inequality Harms the Middle Class (The Aaron Wildavsky Forum for Public Policy)

コメント (第8章まで読了)同書では、「地位財」と区分されるある種の財が人々に顕示的な消費を志向させることから、格差の広がりがミドル・クラスの社会厚生を低下させる可能性が論じられる。米国では、1980年代以降、高所得者の所得がより高くなる傾向が顕著であり、しかも所得再分配の機能が低下していることから、その傾向は税引き後ではより大きなものとなる。これ自体は、19世紀の格差とは異なり、商品・サービスを生み出すことで生じたものであり、一概に悪とは言えない。一方、住宅など「地位財」の選択は、身近な人間関係の中での顕示的欲求に強い影響を受けるため、より高い「地位」を巡る「軍拡競争」を生じさせがちである。高まる格差は、標準的な地位財の価格を引き上げ、(安全への投資や保険など)非地位財への消費を適正な水準以下にまで引き下げる。また、仕事において所得が地位財の位置を占め、余暇が非地位財の位置を占めるという性質があることから、人々が長時間労働に駆り立てられ、その一方で、余暇の縮小が人々の厚生水準を大きく引き下げるのである。(実際、格差の広がりと長時間労働には相関的な関係があるという。)
 格差の広がりは、幸福の低下とも関係があるが、これは身近な人間関係の中での相対的な所得の水準が幸福と関係を持ち、「地位」を巡る競争の中で、余暇等の縮小を招きがちであるという傾向を経由することにより、説明が可能になる。*1さらには、消費関数論争の中で現在主流の位置を占めるフリードマンの「恒常所得仮説」に対し、多くの事例はデューゼンベリーの「相対所得仮説」の方が現実的であることを示す、との指摘など興味深い論点がある。

*1:この点は、マイクロ・データによる04/24/07付エントリーの結果とも整合的である。