ヨーロッパ女子数学オリンピックとは
前回のエントリーでは国際数学オリンピック(IMO)を紹介したが、今回は、その派生イベントであるヨーロッパ女子数学オリンピック(EGMO)を紹介する。前回みたように、日本のIMO出場者を過去29年間、延べ174人についてみると、女子は延べ3人(実人数では2人)と性別に大きく偏る。これは日本に限るものではなく、「全世界的にも女子の参加者は、男子の1割程度」(参考の藤田論文参照)とのことである。日本はそれと比べても、単純計算で2%弱とさらに少ない。
女子のみの参加による数学オリンピックとしては、先ず、中国の国内大会として2002年に中国女子数学オリンピック(CGMO)が始まった。その後、CGMOには他国の選手団が招待されるようになり、日本は2011年から参加した。しかし、2013年は鳥インフルエンザの問題などで中国からの招待状も届かず、不参加となった。
EGMOは、CGMOをモデルとしつつも当初から国際大会として始まり、第1回は2012年にイギリス・ケンブリッジで開催された。対象国はヨーロッパの国々に限定されているが、ヨーロッパ以外の国も承認されれば参加することができる。日本の数学オリンピック財団は、「中国の国内大会であるCGMOよりも国際大会としてIMOに準じるEGMOに参加する方が、日本の数学界における女子選手の育成に大きな効果があると判断」し、2014年トルコ・アンタルヤ大会から参加した。
EGMOには、各国から選手4人を含む選手団が送られる(選手の選抜は各国別)。選手の資格や出題範囲、コンテストの方式は、概ねIMOに準じている。すなわち、
- スクール・エイジの女子選手を各国別に選抜
- コンテストは2日間実施され、各日3問を4時間30分で解き、1問7点、42点満点として採点
- 出題分野は、①平面幾何、②整数論、③代数、④組合せ論の4分野
- 各日3問ずつの問題は、問1、問2、問3(2日目は問4、問5、問6)の順に難易度が増す
- スコアは個人別に集計
であるが、メダリストの基準は、参加者の上位1/12が金、続く参加者の上位1/6が銀、さらに続く参加者の上位1/4が銅となる。IMOと同様、メダルが授与されなかった場合でも、1問完答(部分点なしの7点)で特別賞(Honorable mention)が授与される。開催時期は、IMOが7月であるのに対し、それより早い4月に開催される。難易度は年によって違いがあり、前回2018年のフィレンツェ大会では易化の傾向があったようである。
国別順位では、IMOの強豪国である中国、韓国は参加しておらず、ロシア、アメリカ、ウクライナが近年、最多得点を得ている。日本は、第4回ベラルーシ・ミンスク大会の8位が最高順位である。国別順位やチーム内メダリストの数について、選手の力量だけでなく、選手団の団長およびコーディネーターの力量が寄与する点については、IMOと変わりがない。
日本選手の選考過程
EGMOに参加する日本選手の選考過程をみると、先ず、11月に札幌、仙台、東京、大阪、福岡で一次選抜が行われる。参加資格は、高校2年生(または、それに該当する学年)以下の女子で、1月の日本数学オリンピック(JMO)予選に応募する者、とされている。この一次選抜では、4問を4時間で解き、1問8点、32点満点として採点される。すなわち、JMO本選とは問数は異なるが試験の形式は同じであり、解答に至る過程が重要で部分点もある。また、解答のみ合っていても、過程に誤りがあればその段階で得点に至らない場合もある。ただし、大学入試難問程度の問題から正解者が見込めないような難問までというJMO本選の難易度と比較すれば組みし易く、少なくとも「正解者が見込めないような難問」は出題されていないようである。
一次選抜の結果、成績上位者約10名がEGMO日本代表選手候補者として選抜される。その後、1月のJMO予選の成績を加味し、日本代表選手が決定される。一次選抜の得点別人数及びボーダーの得点は数学オリンピック財団のサイトに公表されており、2018年11月は(欠席者13名を除き)65人が予選に参加、11人が候補者となった。
グラフの通り、一次選抜不合格者の人数は階級別にしかわからないが、グラフの形状をみる限り、得点を得るに至らなかった者が多数を占めているものと思われる。やや強引ではあるが、階級別の一次選抜不合格者をそれぞれ5点及び0点とみなし平均値、標準偏差を推計、正規分布を当てはめると、グラフのオレンジ色の点のようになる。多くの人に馴染みのある偏差値を仮に当てはめると、最高点30点は86.04、ボーダーの得点8点は56.84となる。
なお、一次選抜をクリアした約10人(2018年11月は11人)からJMO予選を加味し4人のEGMO日本代表が選ばれるが、その選考方法は非公表である。JMO予選では12問を3時間で解き、1問1点、12点満点として採点されるが、最高得点12点をボーダーの8点に単純に加えても20点と、4位の22点に満たないことから、単純に得点の合算で決めているわけではなく、傾斜得点化が図られているものと推察される。
EGMO日本代表選手の学校別人数
最後に、EGMO日本代表選手にそれ以前のCGMO日本代表選手を加え、過去9年間、延べ36人の学校別人数(延べで2名以上出場実績のある7校)をみると、つぎのようになる。
上位は洛南7人、桜蔭6人、神女5人となる。グラフは延べ人数であるが、実人数で複数人の出場実績があるのは、この3校のみである。都立2校からの出場者は嘗ての桜蔭在籍者であり(参考のブログ・エントリーを参照)、関東圏の理系女子は、ほぼ桜蔭の一強とみなして強ち間違いではないと思われる。
(参考)
- 数学オリンピック財団( http://www.imojp.org/ )
- European Girls’ Mathematical Olympiad( https://www.egmo.org/ )
- 藤田岳彦『国際数学オリンピック』 Chuo Online( https://yab.yomiuri.co.jp/adv/chuo/opinion/20151005.html )
- ブログ『中学受験ログ ~2015東京』・エントリー( http://sapientica.seesaa.net/article/371580313.html http://sapientica.seesaa.net/article/351659708.html )
- Wikipedia, Twitter等