恒例のエントリーです。今年後半は読書よりOCW(CourseraのPractical Time Series Analysis、edXのMachine Learning on R)やHackerrankなどに嵌りました。それにしても今年、自分にとっては初詣のおみくじ「凶」に相応しい年の始まりでした。
いまのご時世、これまで積み上げられてきた解釈・慣習による予測可能性が唐突の判断で微塵に臥され、新たなルールを過去に遡及適用し誰かを血祭りにあげようとする人間がいる一方、これまでの予測可能性をギリギリの線で死守するため、些末なルールに知恵を絞り土俵際で堪えている人間もいるのだな、という印象です。
以下、順不同で。
石川拓治『茶色のシマウマ、世界を変える 日本初の全寮制インターナショナル高校ISAKをつくった 小林りんの物語』
このところ、「自分の子等もこんな生き方をしてほしい」と思える人の話を聞いている時が、最も心が晴れやかになります。
佐々木実『市場と権力 「改革」に憑かれた経済学者の肖像』
今年読んだ2冊目の凄い本。竹中平蔵氏、立身出世に関する一代記。「剽窃」の件は仄めかし的にチラと聞いたことはあった。氏の学問的資質を著者は疑うが、一方で、人と結びつき、人と人を繋げるこれ程の才覚に、最早、尊敬の念を禁じ得ない*1。信念のみで人はここまで動けるものか。何れにしても「金はあるところにはある」という念を強く感じる。文中に出てくるトヨタ自動車奥田会長の発言の真意も気になる。全体的に米国の影が見え隠れする。
加藤文元『宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃』
話題となった2017年mathpowerでの公演に関する書籍版の趣だが、望月先生の人となりや著者との関係についても書かれている。全体が書き下ろし。理論そのものを説明するわけではなく、その意図(心)を伝えるため、非常に噛み砕いた説明がなされる。望月先生をABC予想の解決に向かわせる直接的引き金になったのは「ホッジ−アラケロフ理論」で、「ホッジ−アラケロフ理論のある側面を数体上で大域的に実現することができれば、ABC予想が解ける」ということに気付いたこととしている。数論における局所理論と大域理論については、本書の最後にも触れられる。
谷村省吾『幾何学から物理学へ 物理を圏論・微分幾何の言葉で語ろう』
前半はテンソル代数から微分形式へ、という流れだが、圏論の言葉が使われるところは新規的。物理量を記述する際、次元の異なる物理量のテンソル積と考えることで分かりやすくなる。
中村雄二郎『術語集 気になることば』
東大入試研究会(東京大学内のサークル)がまとめた『東大生が選ぶ参考書』で、読書量を増やす上でお勧めとされている本。現代思想に頻出する用語が手際よくまとめられている印象で、その意味では、石原千秋『教養としての大学受験国語』とも共通する。
永栄潔『ブンヤ暮らし三十六年 回想の朝日新聞』
「わかる人にはわかる」感覚の文章というはよくあるが、本書は、同時代人にとって比較的誰にでもわかるように書いてある印象。大同酸素、灘生協、経産省の闇など、面白い内容が結構あけすけに書かれている。表層的な報道等からは見えない政治家や経済人等の実録としても読める。