ラスカルの備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

加藤涼「現代マクロ経済学講義 動学的一般均衡モデル入門」(その1)

現代マクロ経済学講義―動学的一般均衡モデル入門

現代マクロ経済学講義―動学的一般均衡モデル入門

第1章 動学的一般均衡モデル−マクロ経済学の再出発−

  • 「通常」のIS-LMモデルは、本質的に y=-σ(i-E[dp])+κg…(IS) m-p=ay-bi…(LM) y:GDP i-E[dp]:実質利子率 g:政府支出 p:物価 と表現できる。ここで、①物価を内生化し、②動学モデル化すると、伝統的IS-LMモデル y(t+1)=ρy(t)-σ(i(t)-Et[dp(t+1)])+ε(t+1)…(Lag付IS) dp(t+1)=γdp(t)+αy(t)+υ(t+1)…(PC) i(t)=q1y(t)+q2dp(t)+η(t)…(TR) が導出される。なお、η(t)はAR(1)に従う*1。このモデルは、現実のデータに比較的フィットし利便性が高いことから、長く政策分析に利用されてきた。
  • 伝統的IS-LMモデルは期待インフレの項を持つが、(PC)よりEt[dp(t+1)]=γdp(t)+αy(t)となり、これを代入することでバックワード・ルッキングな構造となる。このようなモデルでは、①期待の効果が経済主体の現在の行動に影響を与えず、②ミクロ的基礎付けを持たない。
  • (Hybrid型)New IS-LMモデル y(t)=ρEt[y(t+1)]+(1-ρ)y(t-1)-σ(i(t)-Et[dp(t+1)])+ε(t)…(EIS) dp(t)=βEt[dp(t+1)]+(1-β)dp(t-1)+αy(t)+υ(t)…(NKPC) i(t)=q1y(t)+q2dp(t)+η(t)…(TR) はフォワード・ルッキングな構造を持ち、(伝統的モデルの場合と異なり、)金融政策ルールの変化(例えばq2の上昇)が「構造変化」の生じていない方程式の係数をも変化させることで、ルーカス批判が検証される。
  • RBCモデルでは、①1人の代表的個人(家計であると同時に企業を所有・経営)、②財は1種類、③完全情報、④全ての市場は完全競争、を仮定し、その上で、下の最適化問題によりモデルが形成される。
    • 家計の最適化問題 max:E0[Σβ^t[u(c(t),l(t))]] s.t. k(t+1)=(1-δ)k(t)+[w(t)l(t)-r(t)k(t)]-c(t) β:主観的割引率 δ:資本減耗率 をセットする。相対的危険回避度一定(CRRA)型効用関数 u(c(t),l(t))=c(t)^(1-θ)/(1-θ)-μ・l(t)^(1+λ) として、効用関数の異時点間の最適化条件 pdu[/pdc(t)]=Et{β(1+r-δ)・pdu[/pdc(t+1)]}*2及び、同時点内の最適化条件 w(t)=-pdu[/pdl(t)]/pdu[/pdc(t)]*3の2つを導く。
    • 企業の最適化問題は、動学的な要素のない毎期の利潤最大化行動とし、コブ・ダグラス型生産関数 y(t)=υ(t)・k(t)^α・l(t)^(1-α) において*4、資本と労働に関する限界生産性=要素価格を導く。また、υ(t)はAR(1)に従う。
  • RBCモデルの(ディープ・)パラメーターの設定(カリブレーション)については、多くの係数に大まかなコンセンサスが形成されつつある。これらを用いて、生産性ショックに対する動学的反応(インパルス・レスポンス)をみると、①労働供給については、生産性の高い時期に労働供給を増やす効果(異時点間の代替効果)が余暇の限界効用が高まる効果(所得効果)を上回り、②消費の上昇は長い期間に渡る(消費の平滑化)。

第2章 財市場の不完全性*5

  • New IS-LMモデル y(t)=Et[y(t+1)]-σ(i(t)-Et[dp(t+1)])…(EIS) dp(t)=Et[dp(t+1)]+αy(t)…(NKPC) のミクロ的基礎付けを考える。
    • (EIS)を導くため、money-in-utilityの仮定による効用関数の最適化問題 max:E0[Σβ^t[u(c(t),m(t))]], u(c,m)=c(t)^(1-θ)/(1-θ)+m(t)^(1-μ)/(1-μ) s.t. (1+dp(t))(m(t)+b(t)+c(t))=(1+i(t-1))b(t-1)+m(t-1) をセット。ラグラジアン Lag=E0[Σβ^t[u(c(t),m(t)]-λ(t){(a(t)+c(t))-( (1+i(t-1))a(t-1)-i(t-1)m(t-1))/(1+dp(t))}]*6 の1階の最適化条件 pdLag[/pdc(t)]=0, pdLag[/pdm(t)]=0, pdLag[/pda(t)]=0 から導かれる消費のオイラー方程式 c(t)^θ=βEt[(1+i(t))/(1+dp(t+1))・c(t+1)^θ] の対数近似より、lnc(t)=Et[lnc(t+1)]-(1/θ)・{ln(1+i(t))-Et[ln(1+dp(t+1))]}=Et[lnc(t+1)]-(1/θ)・(i(t)-Et[dp(t+1)])…(2.1)*7。ここで、この経済には貯蓄や資本が存在しないことを仮定すると、y(t)=c(t)…(2.2)となり、(EIS)が導かれる。
    • (NKPC)を導くため、①労働供給lと雇用者所得w、②株主配当ψを加えて変更した最適化問題 max:E0[Σβ^t[u(c(t),m(t),l(t))]], u(c,m)=c(t)^(1-θ)/(1-θ)+m(t)^(1-μ)/(1-μ)-l(t)^(1+λ)/(1+λ) s.t. m(t)+b(t)+c(t)=(1/(1+dp(t))・[(1+i(t-1))b(t-1)+m(t-1)+ψ(t-1)]+w(t)l(t) をセット。独占的競争の下での無数の財iが消費され、c(t)はc(i,t)のCESアグリゲーションとする。この時、任意の1時点における家計の支出最小化問題からc(i,t)=(p(i,t)/p(t))^η・c(t)…(2.3) が導かれる。*8
    • 次に、コブ・ダグラス型生産関数y(i,t)=z(t)n(i,t) を条件とする企業の費用最小化問題 min:w(t)n(t) を考える。ラグラジアン Lag=w(t)n(t)-φ(i,t)[y(i,t)-z(t)n(i,t)]の1階の最適化条件より、φ(i,t)=φ(t)=w(t)/z(t):限界費用*9となり、企業の総コストはφ(t)y(i,t)で表現される。全ての財は消費されるという条件 y(i,t)=c(i,t), y(t)=c(t)と(2,3)を制約条件とする企業iの利潤最大化問題 max:[p(i,t)/p(t)]y(i,t)-φ(t)y(i,t)]から max:[(p(i,t)/p(t))^(1-η)-φ(t)・(p(i,t)/p(t))^(-η)]y(t) がセットされ、p(i,t)/p(t)=η/(1-η)・φ(t)=η/(1-η)・w(t)/z(t)…(2.4) が導かれる。さらに全ての企業は均質(p(i,t)/p(t)=1)との条件から、w(t)=(1-η)/η・z(t)…(2.5)。
    • 家計に係る当初の最適化問題に戻り、pdLag[/pdl(t)]=0 を解くことで、l(t)^λ=c(t)^(-θ)・w(t)=y(t)^(-θ)・w(t) を得る。これに(2.5)を適用し、対数標記すると lnl(t)=1/λ[ln((1-η)/η)+lnz(t)-θlny(t)]。さらに、労働需要=労働供給とし生産関数を代入すると、lny(t)=1/(λ+θ)[ln((1-η)/η)+(1+λ)lnz(t)]…(2.6) :伸縮価格の下でのAS曲線。
    • さらに、カルボ型プライシングによる粘着価格を導入(略)。ρ:価格変更確率 x=ln(η/(1-η)) を導入して、dp(t)=Et[dp(t+1)]+ρ^2・(λ+θ)/(1-ρ)・y(t)+ρ^2・/(1-ρ)・x-ρ^2・(1+λ)/(1-ρ)・z(t)となり、NKPCが導出される。σ=1/θ, α=ρ^2・(λ+θ)/(1-ρ) であり、New IS-LMモデルの係数はこれらのディープ・パラメータに依存する。
  • New IS-LMモデルにテイラー・ルールを加えてシミュレーションを行うと、①GDPギャップとインフレ率は、一気に一定値まで上昇した後単調に減少、②名目金利は、①に伴うテイラー・ルールによる内生的利上げにより、利上げ方向に反応。テイラー・ルールに替えてマネー・ルールを加えた場合は、名目金利量的緩和直後から上昇。通常のIS-LMモデルに拠れば、量的緩和政策は名目金利の低下を伴うが(流動性効果)、New IS-LMモデルでは、この効果が生じない。
  • New IS-LMモデルに対するBenhabib, Schmitt-Grobe and Uribeの批判、及びBallの批判(略)。実証上の問題を含め、これらの問題を解決する方法として、Hybrid型のNew IS-LMモデルによる分析が主流となっている。

コメント DSGEモデルへの入門書であるが、数式に弱くとも比較的入り易いよう工夫・配慮がなされている。著者は、DSGEモデルはマクロ経済分析の基本的なフレームを提供するもので、DSGEモデルに対する批判はその改善に向けた方向性として考えるべきである。DSGEモデル無くしては(ルーカス批判を回避できず)、現代においてマクロ経済学を語ることは不可能との考えを有しているように見受けられる。このような考え方には批判もあるが、ただし、互いに相異なる経済観を有しつつも言葉の表層レベルでの意見の一致をみて納得し合っているような人間環境の中にいる者としては、DSGEを基礎とした科学的な経済分析にはある種「希望的なもの」も感じてしまう。
 なお、ここまではDSGEモデルに見られる量的緩和政策のアノマリー等、いわば「ザモデル論争」の前半部分に関する内容。この先は、DSGEモデルへの有効需要原理の導入といった「ザモデル論争」の本質に関わる話に入って行く(のかも、ワクワク)。

*1:η(t+1)=φη(t)+e(t) e:ホワイトノイズ

*2:消費のオイラー方程式(清水谷「期待と不確実性の経済学」第2章等を参照)。

*3:消費の限界効用で割ることで金額単位に変換。(P)

*4:労働市場は均衡するものとし、労働需要=労働供給を仮定。

*5:加藤他による日銀レビューも参照。

*6:a(t)<-b(t)+m(t)で変数を置き換える。

*7:ln(1+x)=x:1階のTalor展開による近似。

*8:CES型関数の特性について(P)

*9:限界費用は、dTC/dy=d(wn)/dy=d(wy/z)/dy=w/z。