ラスカルの備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

フィリップス・カーブ三題

西田小百合、張忠任「マクロ経済における期待の役割−近似合理的期待を考慮したフィリップス曲線に関する考察−」島根県立大学総合政策論叢2006.3)

 期待インフレ率(カールソン・パーキン法)に近似合理性の仮定をおいた期待修正フィリップス・カーブの推計。近似合理性とは、「経済主体自らの効用あるいは利益を最大化しないという意味で非合理的ではあっても、この主体が合理的に行動しないことによる損失は極めて小さい」という考え方(Akerlof and Yellen)。具体的には、期待インフレ率を、期待インフレ率と前期インフレ率の和に置き換える。

鈴木将覚「ニューケインジアン・フィリップス曲線(NKPC)からみた日本のインフレ圧力と金融政策へのインプリケーション」(みずほ総研論集2006.1)

 粘着価格・賃金モデルのニューケインジアン・フィリップス・カーブを日米のデータで推計。このモデルは、インフレ率と賃金上昇率が粘着性を持ち、毎期、一定割合の企業が最適価格に価格変更ができ、その他の企業は前期のインフレ率の一定割合だけ調整されるとするインデクセーション・ルール(Woodford)を仮定したハイブリッド型の構造を持つ。

 日本については、コアCPIを用いた場合の実質賃金ギャップの有効性に疑問が投げかけられることから、賃金動向がインフレ圧力に転じる影響についてはより慎重な判断が求められる。(中略)また、期待インフレ率に関して、日本は米国と比べてフォワードルッキングな要素が強いため、日本の金融政策の方が米国のそれよりも将来の期待に働きかける政策の重要性が高いと思われる。デフレ期待の蔓延によってデフレ経済を進行させた過去の苦い経験を踏まえると、日銀は引き続き将来期待に働きかける政策を重視すべきである。

敦賀貴之、武藤一郎「ニューケインジアン・フィリップス曲線に関する実証研究の動向について」(金融研究2008.4)

 「日本は米国と比べてフォワードルッキングな要素が強い」という(GMMによる)先行研究の結論には留保が必要。例えば、最尤法によるハイブリッド型NKPCの推計では、バックワード・ルッキングの程度を示すパラメータが大きくなり、米国、ユーロ圏との差も小さなものとなる。