「M字カーブのフラット化」とは?
女性の労働力率(15歳以上人口に占める労働力人口の割合)を年齢別にみると、20代前半の労働力率は、その後年齢を重ねるごとに低下し、30代半ばを底にして再び上昇するという傾向がある。いわゆる「M字カーブ」とよばれる現象である。これは、女性の労働力率は、結婚・出産にともなう離職によっていったん低下し、その後、子供の成長にともない、家計補助的な就業ニーズが生じることにより再び高まることを示すものである。
しかし、女性の社会進出の高まりによって、近年、女性の労働力率は高まり、特に、M字カーブの底の層が引き上げられる「フラット化」がみられるようになった。
欧米の女性の年齢別労働力率にはM字カーブのような現象がみられないことから、この動きは、日本の欧米化を示すもののようにもみえる。
フラット化の背景にある未婚率の上昇
その一方で、女性の未婚率は上昇している。未婚者の労働力率は、有配偶者と比較して高いことから、未婚女性の構成比の高まりは、それだけで、労働力率の上昇要因となる。女性の労働力率の上昇幅を、(1)未婚率上昇要因と、(2)(年齢別)労働力率上昇要因に分解すると、M字カーブのフラット化は、前者の要因によるところが極めて大きいことがわかる。
つまり、M字カーブのフラット化は、育児休業制度の充実などにより、女性が結婚しても働きやすくなったことにともなうものというよりは、独身女性が増加したためと考えた方が適切であるといえそうである。
この現象を評価すべきか
以上のように、近年のM字カーブのフラット化の背景には、女性の未婚率の上昇があるが、因果関係を考えることは難しい。1つの考え方は、結婚と比較して、独身を継続ことの便益が高まったため、未婚率が上昇しているというものである。女性の社会進出の高まりは、家庭を持つことよりも、独身を継続し、自らの仕事に没頭したいという志向性を高めることにもつながる。(女性が結婚や育児のために離職するという社会的な慣行が事実としてある以上、このような場合には、独身を継続したいという希望が必然的に生じる。)その結果として、未婚率が上昇すると同時に、M字カーブのフラット化が生じたと解釈できる。
もう1つの考え方は、結婚の機会が減少したこと、ないしは、女性の社会進出とは関係なく、単に結婚を望まない女性(ないし男性)が増えたことが未婚率の上昇を招き、その結果、M字カーブのフラット化が生じたというものである。
第1の解釈に従えば、女性の社会進出によってM字カーブのフラット化が生じており、この現象に限れば、「政治的な正しさ」の観点から評価し得るものである。一方、未婚率の上昇は明らかに合計特殊出生率の引き下げ要因となっており、少子化問題を重視する立場からは、女性の継続就業を促進する政策が正当化される。
ところが、第2の解釈に従うと、M字カーブのフラット化は、単に、結婚できない(あるいはしたくない)女性が、生計維持のため仕事を継続していることの結果に過ぎないことになる。
今の材料だけでは、そのいずれが正しいのか評価はできないが、この観点から、さらに分析を進めることはできそうである。