小泉政権下で行われた2005年9月の郵政選挙の自民党の大勝から、2007年7月の参院選での大敗までの2年間、どのような変化があったのだろうか。これをB・フライのいう政治経済学的な含意から、うまく説明することができるだろうか。
マクロ経済的には、この間、景気は回復し、インフレ率が低い水準を続ける中で完全失業率は改善を続けている。格差問題に関する指摘はあるが、統計的に計測される格差の水準は、完全失業率が改善する中でむしろ低下しており、格差問題といわれる現象は、むしろ1990年代からの長期不況期の名残りであったとみなすことができる。にもかかわらず、上述のような選挙結果がもたらされたという事実は、国民は、自らの利己心に基づき合理的に政党を選択しているわけではない(例えば、マスコミによって形成される時々のムードに流されているだけである)ことを意味するのだろうか。
この点について、仮説的な回答を与えるのは、二大政党化において、政党はイデオロギー的により中立的となることで得票最大化を図ることができるというダウンズの理論であろう。この中位投票者定理は次のように説明される。左翼政党と右翼政党が存在し、そのいずれも政権を望んでいるとする。このとき、左翼(右翼)政党は、その綱領をイデオロギー的により中位に近づけることで、得票を拡大することができる。なぜなら、もともと左翼(右翼)的な人は、仮に政党がそのような行動をとったとしても、相対的に自身の見解に近い綱領をもつ左翼(右翼)政党に投票するであろうからである。
小泉政権下の自民党は、明らかに都市型政党を意識している。公共事業を増やさず、地方経済は景気回復の恩恵を十分に受けることがない中で、大都市圏を中心に経済は成長を続けた。それは、経済政策運営としては、必ずしも間違いとはいえない。しかしながら、企業収益の高まりに比して賃金上昇率は低く、その結果が、消費がその間も停滞を続けたことに現れている。
一方、民主党では2006年に小沢一郎氏が代表に就任し、それまでの党の路線を変更し、生活や地方を重視する姿勢を明らかにしている。このような、より「中流」の国民階層の支持を重要視する民主党の姿勢が、2007年の選挙での大きな変化をもたらしたのではないかと考えることができる。
自民党は、自らが考える「普通のひと」がどのようなものであるかをしっかりと見据え、その層の利害を重要視する姿勢を示すことによって、この数ヶ月以内に見込まれる衆議院選挙に臨むことが必要である。その際には、突然変異的に変化するのではなく、従来から支持を受けている層との位置関係も見据えつつ、それを試みることが重要であろう。