スティグリッツ教授の経済教室―グローバル経済のトピックスを読み解く
- 作者: ジョセフ・E・スティグリッツ,藪下史郎,藤井清美
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2007/10/19
- メディア: 単行本
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本書は、プロジェクト・シンジケートへの2003年から2007年までの連載と、日本経済に関する書き下ろしの論文(第1章)からなる。
http://www.project-syndicate.org/series/11/description
スティグリッツは、近年、アラン・グリーンスパン前FRB議長に対し辛らつな批判を行っているが、本書の以下のような記述(2005年11月初出)を読むと、この考え方は、それ以前からの継続的なものであることがわかる。
しかし、グリーンスパンの残す遺産の真の問題点は、過去五年間にアメリカ経済に起きたことに関わるものだ。これに対して、彼には大きな責任がある。
グリーンスパンはこれ以上ないほどまやかしの理屈で──拡大し続ける財政黒字を何とかしなければ、アメリカの国歌債務は10年ないし15年で完済されてしまうという理屈で──2001年の減税を支持したのである。この迫りくる危機──FRBが金融政策を実行することを不可能にする危機(訳注:FRBは国債の売買を通じて通貨供給量を調整しているので、国際がなくなればその調整ができなくなる)──を防ぐためには、ただちに行動する必要があると、彼は主張した。
(中略)
グリーンスパンの無責任な支持は、あの減税案が可決されるうえで決定的な役割を果たした。問題は減税の規模にあっただけでなく、その内容にもあった。高所得層を対象とする減税にしたことで、景気を刺激する効果はほとんどなかったのだ。
財政赤字は拡大したが、それによって経済を完全雇用状態に回復させることはできなかったため、FRBは当然なすべきこと、つまり金利の引き下げを行った。利下げは功を奏したが、それは利下げによって投資が活発になったからというよりも、家計が住宅ローンを借り換えて、それが住宅価格のバブルをあおったからだった。
要するに、グリーンスパンは退任するとき、家計および政府部門の巨額の債務と脆弱なバランスシートを抱えたアメリカ経済──グローバル金融市場の不安定さをすでに助長している遺産──をあとに残すことになるわけだ。
なお、日本経済に関する論文では、インフレ率だけをターゲットとし、失業率や為替レートを考慮しないような金融政策のルール(本書にいう「インフレターゲット」)はとるべきでないとし、その意味において、ECBの(当時の)金融政策に懸念を示している。このような金融政策に対する見方は、先日翻訳したブランシャールの論文や、クルーグマンの論調とも共通するものであるといえる。