備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

ジョージ・ポリア(柿内堅信訳)『いかにして問題をとくか』

いかにして問題をとくか

いかにして問題をとくか

 本書の著者である故G・Polyaは、数論等の分野で著名な数学者であり、ハンガリー出身の元スタンフォード大学教授であるが、むしろ、本書に代表される問題解決法や教授法などの分野で一般的には名の知られた人である。特に本書は、なにをか況んやといえる程、世の中に知られているが、不覚にも、自分がその存在を知ったのは最近である。
 偶然、このところ本書の紹介を立て続けに目にした。いくつか例を挙げると、一つ目は、最近填まっていて遂には全巻読破することになった結城浩数学ガール』シリーズの参考文献としてである。

数学ガール (数学ガールシリーズ 1)

数学ガール (数学ガールシリーズ 1)

もう一つは、国語の指導法を主たる内容として定期的に更新されている『国語導師のブログ』の中の以下のエントリーにおいてである。
・ 『推薦図書 (指導者向け)』
 前者では、「どうやって問題というものを解いていくかを解説した、歴史的名著」であるとし、学ぶ人の必読書だとしている。一方後者では、「解き方の根底にある思想は、十二分に国語の問題にも役立つ」とし、特に、設問文の読み方の解説として本書が推薦されている。

 このように、本書の活用の仕方は人それぞれであり、時にはビジネス上の問題解決の指南書として読めないこともない。実際、そのような活用の仕方をしている人もいるだろう。とはいえ、本書の主眼はあくまで目の前にある数学の問題をどう解くかという点に置かれており、気づきや発見が重視されている。その意味では、これからより高い学歴を目指す若い人にとって最も有用であることに異論はないだろう。
 もちろん、気づきや発見ができるようになるためには、その前提として、一定の演習量で知識と技法を「体得」する必要がある。そうした点を、読者は行間から読み取るほかない。また、翻訳、言葉使いが古く、文章構成に難があることから、中高生に読ませるにはやや無理がある。翻訳の問題としては、例えば「算術級数」「幾何級数」といった言葉は、それぞれ「等差級数」「等比級数」とした方が一般的である。中高生の教育にこれを役立てるためには、本書の内容をうまく翻訳して伝えることのできる適切な指導者を必要とするだろう。

 さて本書では、問題を解くにあたっての流れが、表紙の冒頭でつぎのように整理されている。

1.問題を理解すること
2.計画を立てること
3.計画を実行すること
4.ふり返ってみること

 また、それぞれの段階ごとの内容が、具体例をもとに丁寧に説明される。例えば、2.の段階では、以前に解いた似た問題を知っているか、もし与えられた問題が解けなかった場合は、もっと易しくてこれと似た問題は考えられないか、問題の一部分を解くことはできないか等、諦めずに取り組むよう促すようなアドバイスが手を替え品を替え現れる。

 これを、実際に第4部の問題19の解き方に活用してみる。なお、問題19の文章は説明に不足があり、やはり翻訳上の問題が感じられるが、掻い摘まんでまとめるとつぎのようなものである。
 正六角形は同じ長さの6本の辺をもち、また、それらの辺と平行な直線を3本考えることができる。この3本の直線と平行な直線を何本か用意し、正六角形を同一の正三角形に均等に分割する。そのとき、正六角形の各辺は直線によって均等に分割され、その分割数をnとする。
 問題は、このとき、均等に分かれる正三角形の数を T^6_n、分割によってできる三角形の辺と頂点の数をそれぞれ L^6_n,P^6_nとすると、これらをnを用いた式で表しなさい、というものである。(ただし、複数の正三角形で共通する辺や点は一つと考える。)
 下の図は、n=1の場合を表す。

 この場合、正六角形は6個の正三角形に均等に分割される。しかしn=2とすると、正三角形の数は一気に増加し24個となる。辺や頂点の数ともなれば、もはや数えることもうんざりする。
 しかし、ここで本書の「もっと易しくてこれと似た問題は考えられないか」という言葉が参考になる。正六角形の分割については、その例示を考えることも困難であるが、図の6個の正三角形のうちの一つについて同じ問題を考えることは比較的容易である。下の図は、n=2の場合を示したものである。

 まずは上図の正三角形上で問題を解決し、その上で、その結果を正六角形の場合に応用すればよい。つまり、正三角形の場合の答えをそれぞれ6倍し、最後に、重なる部分をそこから差し引けば、正六角形についての答えが出る。
 例えば、正三角形の分割数は奇数の級数の形で表され、答えはつぎのようになる。
 T^3_n = 1 + 3 + \cdots + \left( 2n-1 \right) = \sum_{k=1}^n \left( 2k-1 \right) = n^2
 L^3_n = 3 + 6 + \cdots + 3n = \sum_{k=1}^n 3k = \frac{3n \left( n+1 \right)}{2}
 P^3_n = 1 + 2 + 3 + \cdots + \left( n+1 \right) = \sum_{k=1}^{n+1} k = \frac{\left( n+1 \right) \left( n+2 \right)}{2}
 最後に、正六角形に関しては、つぎのようになる。
 T^6_n = 6 \cdot T^3_n = 6n_2
 L^6_n = 6 \cdot \left( L^3_n - n \right) = 3n \left( 3n+1 \right)
 P^6_n = 6 \cdot P^3_n - 6n - 5= 3n^2 + 3n + 1

 以上のようにして答えが導かれる。*1

 ちなみにこの問題は、中学受験の平面図形問題として、いかにも応用できそうなものである。違いは数式に文字が使われることで、nを具体的な数値にすれば、典型的な中学受験の問題となる。このように、本書には中学受験から中高数学に移行する段階に適した素材が豊富で、これらの素材が、いかに中高で学ぶ抽象的な数学に結びついていくのかを垣間見れる。また、読むだけでなく自らペンを取ることで、著者の主張を体験を通じ理解でき、実例を通じ「問題を解く」姿勢が身に付く。その意味では、本書が中学生でも読めるような文章に「翻訳」(超訳?)されていないことは、非常に残念である。

*1:添付の解答では、本エントリーとは違う解き方をしている。