備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

山田久「正社員・非正社員の処遇格差の是正に向けた視点」(Business&Economic Review)

  • 正社員・非正社員の処遇格差の是正に繋がる動きとして、①成果主義賃金の導入、②契約社員派遣社員、インディペンデント・コントラクター等非正社員内での多様な就業形態の生成、③大手スーパーにおける「正社員的パート」の登場等正社員・パートの中間形態の導入、等が見られ、経済合理性から見ても正社員・非正社員の隔たりを無くすような動き。
  • 労使における見解は、労働側は「均等処遇原則」の確立が急務と主張する一方、使用者側は「均等処遇」は必要であるが、労働条件はあくまで労使自治によって決められるべきであり、法制化には反対。見解が隔たる理由は、正社員に対する処遇・法的保護のあり方が時代に変化に合わない点にあり、これを見直した上で、均等化していく必要。
  • 新しい労働者保護の考え方は、①雇用保障から雇用機会の提供・能力開発支援に重点をシフト、②仕事と家庭生活の両立支援、③労働時間管理から安全配慮・健康管理義務の強化に重点をシフト、④働く機会を増やし年金制度の必要性を低下、することに集約できる。
  • 企業が主体的に「同一価値労働・同一賃金」を実現していくことではじめて処遇均等化は達成される。そのもう一つの条件は、「職種別賃金」の形成に向けて、企業の枠を超えた職種別の労働市場を社会横断的に整備していくこと。

コメント 要約では捨象した個別の論点を含め、極めて妥当な意見*1と考えるが、強いて異論を挙げるとすれば、最後の「職種別賃金」*2に係る論点。企業の利益の配分に係る賃金要素と、企業横断的な職種に応じた賃金の基準をどう調和するかというのは、日本の会社の現状の仕組みを考えると非常に先の長い議論を要するか*3。一部の専門職種を除外すれば、あまりに楽観的でユートピア的な話に聞こえるが。*4

*1:ただし、年金制度に係る部分は、フィージビリティ的に微妙。

*2:八代尚宏氏の著書にも出てくる言葉。

*3:関連するものとして、中村問題に関する労務屋氏のエントリー及びコメント欄、トラックバック先における議論。中村問題のような特殊な例は別として、人件費を①利益の配分と考えるのか、②利益を生むための経費と捉えるのか。企業会計的には②とするわけだが、働き方が変わる中で、②から①へというのが世の中の流れか。また、ロナルド・ドーア氏の講演では、米国の経営者の報酬が、労働組合の賃上げ率と歩調をとる方式から、取締役会の報酬小委員会で交渉する方式に変化している点を指摘。

*4:確かにそうなったら理想的だとは思いますが。また、そのためには、給与制度が職務給となることが必要。今の成果主義に向けた動きは、必ずしも職務給を志向するものではないと理解していたが、本論文によれば「職務・業績型」賃金制度への移行が流れだとされている。