ラスカルの備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

橘木俊詔「格差社会 何が問題なのか」

格差社会―何が問題なのか (岩波新書)

格差社会―何が問題なのか (岩波新書)

コメント 著者の格差問題に関する議論については、前著*1においてみられたように、統計の使い方に問題があり、ジニ係数上昇の背景にあった人口高齢化の問題を十分に捉え切れていないなど、多くの批判があるが、本書は、それらの反省に立っていることは認められるにしても、その点に関するコメントは殆どなく*2、引き続き、格差拡大の「煽り」に終始している感は否めない。本書の中にも、景気が拡大する中にあってもフルタイムとパートタイムの間の賃金格差は「現在も拡大の傾向にある」といった、明確に事実と異なる記述があったり、「私は、格差の下層にいる人たちに特に注目すべきだと考えます」と言いながら、その前の分析に用いられているデータは相対的貧困率であり、相も変わらずデータの使い方には脇の甘さがみられる。
 ただし、後半に指摘されている論点をみると、

  • 機会の平等性を高まることが、むしろ、経済の効率性を高める
  • 高所得者が高い税金を取られても、勤労意欲を失ったという実際の証拠はない
  • 日本においては、最低賃金を上げても、雇用が減るということはない

といった、今後の議論に繋がるような興味を引く論点の提示がある。さらに、所得再分配を重視する考え方等は、今後の政策のあり方を巡る大きな議論に繋がる論点でもある。*3とは言え、脇の甘さや「煽り」に終始する姿勢など、引き続き、著者に対する不信感は拭えないでいる。

*1:

日本の経済格差―所得と資産から考える (岩波新書)

日本の経済格差―所得と資産から考える (岩波新書)

*2:むしろ、社会的な議論を巻き起こしたことを喜んでいるようにすら感じられる。

*3:ただし、「同一労働同一賃金」「職務給」等を重視する著者の考え方には、現実と乖離した机上の論理のような印象も受ける。