ラスカルの備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

「仕事を豊かに生む景気回復」とILOによる政策効果分析

 4月20〜21日にワシントンD.CにおいてG20労働・雇用担当大臣会合が開催されました。このときに、ILO(国際労働機関)が提出したレポート"Accelerating a job-rich recovery in G20 countries: Building on experience" を読む機会がありましたので、少し内容を紹介します。
 なお、このレポートを含むG20会合に関するILOの文書は、下のサイトを参照してください。
http://www.ilo.org/global/About_the_ILO/Media_and_public_information/Press_releases/lang--en/WCMS_126202/index.htm

 2008年の第4四半期に、おおくの国で実質GDPが低下しました。一方、これと比較した完全失業率の悪化の程度は、国によってさまざまです。

日本は、ドイツとともに、実質GDPの低下は著しかったにもかかわらず、完全失業率の悪化はかなり小さなものであったとされています。このような高いパフォーマンスを経験した日本とドイツに共通する政策としてILOが注目しているのが労働時間の調整です。(日本の場合は、雇用調整助成金を活用した労使協調的な雇用維持がそれに相当します。)しかしながら、この政策はコストをともなうものであるため、どのように、かつ、いつそれを停止するかという課題があり、景気回復がはっきりしてした段階では、雇用維持政策から、採用助成的な政策に切り替えるべきこともあわせて指摘しています。

 レポートでは、各国の雇用政策を、以下のようなカテゴリーにわけて捉えています。またこうした政策によって、G20全体で2千百万人、全就業者の1%に相当する仕事が創出されたとしています。

Stimulating labour demand:
Extending social protection:
Promoting employment and skills:

なお、上述した日本やドイツの政策は3番目のものに相当し、これにはほかに公共雇用サービスの強化や民間職業紹介機関との協力の推進、雇用者・求職者・新規入職者に対する職業訓練の提供、social dialogue (労使間の協定など)の広範囲な活用、といったものが含まれています。

 社会保障の拡充については、例えば、失業保険の受給期間の延長などが含まれますが、これは、低所得層に直接影響を及ぼすことで貧困化を防ぐと同時に、それを通じて、景気循環に対してcounter cyclical に機能することが指摘されています。長期的にみれば、社会保障は、人的資本の形成によって労働生産性を高め、経済成長の持続可能性に貢献するものだとしています。(日本においても、社会保障制度のカバー率を高めることなどセーフティネット機能を拡充することが課題であるように見受けられます。)

 裁量的な社会保障支出は、経済危機以降おおくのG20諸国において拡充されており、これは、1997年のアジア通貨危機時におおくの国でそれが削減された事実と対照的なものです。

 このレポートでは、雇用政策だけでなく、マクロ経済政策についても言及しています。高レベルの生産的雇用を達成することは、低いインフレ率、持続可能な財政や高い経済成長と同じく、マクロ経済政策の目的とされるべきものであるとしています。

Achieving a faster pace of growth in quality productive employment requires better coordination between macroeconomic and employment policies. The G20 Leaders have committed to a mutual assessment process for the framework for strong, sustainable and balanced growth. The framework spans macroeconomic as well as employment and social protection policy levers. Achieving a high level of productive employment should be recognized as an objective alongside low inflation, sustainable public finances and strong growth. A financial sector at the service of the real economy and encouraging long term productive investments is part of this approach.

 また、生産性、賃金、雇用の間のバランスをとることは、不確実性を低下させ、強く、持続可能で、バランスのとれた成長の基本となります。生産性の向上は、賃上げを決める際のベンチマークを提供するもので、労使の機関に支えられた集団交渉は、バランスのとれた成長のために重要な役割を果たすとしています。

 ほかにも、「出口」戦略を急ぎすぎないこと、雇用・社会保障政策の統合的な展開、社会保障のbasic floor をしだいに統合させていくこと、グリーン・ジョブの推進、国際協調など、ILOらしいサジェスチョンが並んでいます。

 このレポートのほかにも、ソマビア事務局長による解説がビデオにて提供されていますので、ご参照ください。

http://www.ilo.org/global/About_the_ILO/Media_and_public_information/Broadcast_materials/Videointerviews/lang--en/WCMS_126122/index.htm

(参考エントリー)