ラスカルの備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

『atプラス』08号(太田出版)

atプラス 08

atプラス 08

 本号は「震災緊急特別号」と位置づけられ、なかでも、キャッシュ・フォー・ワーク(CFW)についての特集が注目される。

 CFWとは、「災害対応、復旧・復興事業などに被災者を雇用し、対価として現金を支給する」というプログラムであり、無償による支援を基本とするボランティア活動などとの対比で考えることができる。最初の永松伸吾(CFW Japan代表)による論文によれば、今回のような1000年に一度といわれるような震災からの復旧活動では、通常の災害の場合とは異なり、『「小国の仮定」すなわち被災地は社会全体からすれば十分に小さく、被災地での対応が経済全体に影響を及ぼさない、という前提』が成り立たなくなる。このような場合、被災地に残存する資源、なかでも、「生き残った人々」(=人的資源)と「被災者と被災地が持つ連帯意識・郷土愛・相互信頼」(=社会関係資本)を復興活動のために活用することは大きな意味を持つこととなる。また、無償の救援物資は、ときに、被災地の経済復興を妨げることになる。こうした視点から、被災地の人的資源と社会関係資本を活用した復旧・復興のための手段として、CFWが提唱される。
 CFWはあくまで平常の経済活動が再開されるまでの「つなぎ」であり、通常の経済活動が再開されたときには、CFWによる活動は撤退すべきであるとされる。そのため、CFWによって支払われる賃金は、通常の賃金よりも低く設定されなければならない。被災者がCFWに依存することになれば、平常の経済活動の再開はむしろ遅れることになる。このことは、政府の補助金が「麻薬」のようにいつまでも継続されるようになった事例を考えれば、その重要性が理解できるであろう。

 本特集の最後に位置する稲葉振一郎明治学院大学教授)の論文では、やや異なる視点として、福島第一原子力発電所の事故にともなう避難者の問題が取り上げられる。CFWの活動においては、「コミュニティの再建」が重視されるが、一方で、恒久的な避難民の問題にこれを応用することは困難である。
 福島県の被災者は、同じ震災による岩手県宮城県の被災者の場合と、その実態がどのように異なるのか──これは、以下に掲げる各県の避難者受入状況をみれば明らかとなる。

 例えば、山形県の避難所の受入状況をみると、ほとんどが福島県からの避難者で占められていることがわかるだろう。福島県から遠距離にある秋田県においても、その避難者は、福島県からの者が最もおおくなる。すなわち、岩手県宮城県は、被災者がおおむね自県の避難所にとどまっているのに対し、福島の避難者は近隣各県に飛び散っているのである。よって、『「難民」「ディアスポラ」となる人々に対しては、そもそもCFWという仕組みが適当なのか』さえわからない、ということになる。
 この論文では、『「難民」「ディアスポラ」』の問題は指摘しつつも、その後は、NPOや企業等の自発的な取り組みや、政府の「日本はひとつ」しごとプロジェクトなどに言及しつつ、現時点の取り組みを肯定的、あるいは見方によっては楽観的に捉えているようにみえる。確かに、政府にも広域的な職業紹介を可能にするインフラが整備されており、これらを活用した政策的取組みは実際に行われているだろう。しかし、そうした取組みも、かつてない広がりを持つ災害に対し、多分に「走りながら考える」状況にあるのではないだろうか。いいかえれば、これまでのところ、制度の「限界的」なところにおいて、事への対処がなされてきたのである。

(追記)

 冒頭の大澤真幸の連載『可能なる革命──友愛のコミューンと偽ソフィーの選択』では、その前半での、レベッカ・ソルニットの「災害ユートピア」、ジェイムズの戦争の等価物としてのさまざまなコミュニティワークに関する指摘が興味を引いた。