ラスカルの備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

非正規雇用比率の上昇は、労働者構成の変化によるものか?

 先日のエントリーでは、物価の上昇に見合う賃金の上昇をマクロで実現することは、非正規雇用比率上昇による雇用面からの下押し圧力が続く限り困難であり、また、今後の雇用情勢の改善をみる上で、雇用の「量」の改善よりもむしろ雇用の「質」の改善をみることが重要であることを指摘した。
 一方、非正規雇用比率に関して、性・年齢別の雇用者構成が変化する中、自然に上昇し得るものだとの見方もある。例えば、1月9日付け『かんべえの不規則発言』では、「男性は昔から就業率が高く、年代による就業率差もないので、就業者数は人口動態に従って減少局面にあ」り、「女性は、高齢者層は就業率が低い時代のままであり、この層が退出し、就業率が高い若年に移動すると、就業者数は増加する」傾向がある中、女性を中心に雇用者がこのところ増加し過去最高の水準となっているが*1、この場合、「介護や福祉など年収が高くない職種ばかりで女性の雇用が増えて、全体の賃上げには寄与しないという見方」もできるとし、「非正規の雇用は、いくら増えてもけっして評価してはいけない」的なこだわりが世間にあることを暗に批判している*2
 たとえ非正規雇用であっても雇用が増加するのはよいことだという意見は、(マンパワーあたりのコスト低下を問題視する向きはあるにしても、)一面としては真実である。それに加え、その上昇が雇用者構成の変化にともなう自然な動きだとすれば、 給与を受け取る個人にとっては何ら問題なく、企業は、構造的な要因によってマンパワーあたりのコスト低下を享受することができたというだけのことになる。

 ただし、こうした印象論だけでこの問題を片付けることは、現実にある問題から人々の目を背けることになる。先日のエントリーにも記したように、リーマン・ショック後の2010年から2013年にかけて、非正規雇用比率は33.7%から36.3%へ2.6ポイント上昇している(各年第1四半期)。まず、この上昇を、性・年齢階級別にみると、つぎのようになる。


 非正規雇用比率は、男女別に、その年齢プロファイルが大きく異なっており、総じて女性において比率が高くなる。また、年齢階級別には、若年層と高齢層で高くなる。一方、2010年から2013年までの上昇幅をみると、男女の若年層と50歳台後半〜60歳台前半層、女性の30歳台後半〜40歳台前半層で特に上昇しているようにみえる。
 ただし、このグラフからだけでは、非正規雇用比率の上昇が、識者がいうように雇用者構成が変化したことによる自然なものなのか、それとも実際に非正規雇用が増えているのかが判然としない。このため、2.6ポイントの上昇幅を、(1)性・年齢階級別の非正規雇用比率が上昇したことによる寄与、(2)性・年齢階級別の雇用者構成が変化したことによる寄与、(3)交差項、の3つの要因にわけでみることにする。この寄与度分析は、以下の数式による。


ただし、r:非正規雇用比率、L:役員を除く雇用者数、s:(性・年齢階級別)雇用者構成比、ij:性・年齢階級インデックス、t:時点

 上式の最後の右辺第1項が(1)の非正規雇用比率が上昇した要因、右辺第2項が(2)の雇用者構成が変化した要因、右辺第3項が(3)の交差項となる。実際に計算した結果は下のグラフのとおりである。

 これをみると、雇用者構成が変化したことによる寄与度は0.6ポイントであり、その3分の2は女性の構成変化がもたらしている。しかし、主たる上昇寄与を与えているのは(性・年齢階級別の)非正規雇用比率が上昇した要因であり、2.1ポイントと、上昇幅のほとんどを占めている。

 結論としては、近年、特にリーマン・ショック以後、総じて経済活動が活発化する中にあって非正規雇用比率が上昇しているが、それが意味するのは、性・年齢別の雇用者構成の変化による自然な動きではなく、労働コストの削減のためなど、主に企業側の理由によって生じた雇用の「質」の低下である。こうした企業側の理由による非正規雇用比率の上昇は、かねてから指摘しているとおり、デフレ下の経済環境にあっては自然なものといえる。デフレ下での自然な企業行動は、デフレ脱却の兆しがみえ始めた現下にあっても、履歴効果的に、しばらくは続く可能性がある。デフレ脱却を測る上での重要な判断要素である賃金の上昇は、このような現状が続く限り、実現困難であろう。雇用の「質」の向上=賃金の上昇=デフレ脱却は、三位一体で実現し得るものであるとともに、そういう形でしか実現し得ないものでもある。

*1:ただし、自営業主は減少している。雇用面での雇用者比率の高まりは構造的なものであり、トレンドは右肩上がりとなる。

*2:http://tameike.net/comments.htm