ラスカルの備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

宮岡礼子『曲がった空間の幾何学 現代の科学を支える非ユークリッド幾何とは』

ユークリッド幾何学についての一般向け解説書。「一般向け」とはいっても、その内容は大学教養レヴェルを超える。著者は、日本数学会幾何学賞を受賞したこともある数学者。低次元の、主に「閉じた」曲面に限定して解説するが、本書の半ばでは、いわば本書のクライマックスたるガウス・ボンネの定理、最後は微分形式や表現論まで行き着き、最後はポアンカレ予想と関係するサーストンの幾何化予想に軽く触れるという極めて野心的な内容。その過程では、双曲面幾何、ホップ予想、等質空間等、数学科の授業で聞いたような話が所々ちりばめられ、然は然り乍ら、それらが無味乾燥な概念として単に置かれているわけでもない。中高生であっても、意欲があれば十分読み込める*1

最初の段階で、内積、位相から曲率、測地線まで一気呵成に解説し、一般読者の関心が高い(と思われる)多角形のオイラー数、種数についても丁寧に解説される。恐らく何より、内積と曲面の計量の関係が極めて明快である点が、本書の解り易さを決定付けている。もちろん専門書のように丁寧な証明を行うわけではないが、「本質」はしっかり押さえられる。専門書で証明を追いつつ路頭に迷いがちな数学専攻の学生にとっては、良き道案内者となってくれるかも知れない。小さな本ながら、極めてお得感がある。

*1:とは言え、多変数の微積分と多様体に関する、ある程度の知識があった方が理解は早い。志賀浩二『現代数学への招待 多様体とは何か』など。http://traindusoir.hatenablog.jp/entry/20150826/1440593365