備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

真の失業率──2017年10月までのデータによる更新

 完全失業率によって雇用情勢を判断する場合、不況時に就業意欲を喪失し労働市場から退出する者が発生することで完全失業率が低下し、雇用情勢の悪化を過小評価することがある。この効果(就業意欲喪失効果)を補正し、完全失業率とは異なる方法で推計した「真の失業率」を最新のデータを加えて更新した。

 完全失業率(季節調整値)は2.8%と前月と同水準、真の失業率は2.3%と前月より0.1ポイント低下した。引き続き、真の失業率は減少基調である。現推計時点において、真の失業率は基準年*1である1992年より改善していることとなる。

 所定内給与と消費者物価の相関に関する9月までの結果は以下のようになる。物価は8月に、賃金は9月に上昇率が拡大した。賃金は、今春闘結果を反映し緩やかに増加しており、加えてパート比率の低下が安定的に賃金を押し上げている。

https://www.dropbox.com/s/fixt1abitfo58ee/nbu_ts.csv?dl=0

*1:本推計において完全雇用が達成しているとみなす年。

真の失業率──2017年9月までのデータによる更新

 完全失業率によって雇用情勢を判断する場合、不況時に就業意欲を喪失し労働市場から退出する者が発生することで完全失業率が低下し、雇用情勢の悪化を過小評価することがある。この効果(就業意欲喪失効果)を補正し、完全失業率とは異なる方法で推計した「真の失業率」を最新のデータを加えて更新した。

 完全失業率(季節調整値)は2.8%と前月と同水準、真の失業率は2.4%と前月より0.1ポイント低下した。引き続き、真の失業率は減少基調である。現推計時点において、真の失業率は基準年*1である1992年より改善していることとなる。

 所定内給与と消費者物価の相関に関する8月までの結果は以下のようになる。物価は8月に入り上昇率が拡大した。賃金は、今春闘結果を反映し緩やかに増加しており、加えてパート比率の低下が安定的に賃金を押し上げている。



https://www.dropbox.com/s/fixt1abitfo58ee/nbu_ts.csv?dl=0

*1:本推計において完全雇用が達成しているとみなす年。

宮岡礼子『曲がった空間の幾何学 現代の科学を支える非ユークリッド幾何とは』

ユークリッド幾何学についての一般向け解説書。「一般向け」とはいっても、その内容は大学教養レヴェルを超える。著者は、日本数学会幾何学賞を受賞したこともある数学者。低次元の、主に「閉じた」曲面に限定して解説するが、本書の半ばでは、いわば本書のクライマックスたるガウス・ボンネの定理、最後は微分形式や表現論まで行き着き、最後はポアンカレ予想と関係するサーストンの幾何化予想に軽く触れるという極めて野心的な内容。その過程では、双曲面幾何、ホップ予想、等質空間等、数学科の授業で聞いたような話が所々ちりばめられ、然は然り乍ら、それらが無味乾燥な概念として単に置かれているわけでもない。中高生であっても、意欲があれば十分読み込める*1

最初の段階で、内積、位相から曲率、測地線まで一気呵成に解説し、一般読者の関心が高い(と思われる)多角形のオイラー数、種数についても丁寧に解説される。恐らく何より、内積と曲面の計量の関係が極めて明快である点が、本書の解り易さを決定付けている。もちろん専門書のように丁寧な証明を行うわけではないが、「本質」はしっかり押さえられる。専門書で証明を追いつつ路頭に迷いがちな数学専攻の学生にとっては、良き道案内者となってくれるかも知れない。小さな本ながら、極めてお得感がある。

*1:とは言え、多変数の微積分と多様体に関する、ある程度の知識があった方が理解は早い。志賀浩二『現代数学への招待 多様体とは何か』など。http://traindusoir.hatenablog.jp/entry/20150826/1440593365

真の失業率──2017年8月までのデータによる更新

 完全失業率によって雇用情勢を判断する場合、不況時に就業意欲を喪失し労働市場から退出する者が発生することで完全失業率が低下し、雇用情勢の悪化を過小評価することがある。この効果(就業意欲喪失効果)を補正し、完全失業率とは異なる方法で推計した「真の失業率」を最新のデータを加えて更新した。

 完全失業率(季節調整値)は2.8%と前月と同水準、真の失業率は2.5%と前月より0.1ポイント低下した。引き続き、真の失業率は減少基調である。現推計時点において、真の失業率は基準年*1である1992年より改善していることとなる。

 所定内給与と消費者物価の相関に関する7月までの結果は以下のようになる。賃金、物価ともに概ね先月の水準と変わらない。物価は、グラフには反映していないが、8月に入り上昇率が拡大した。賃金は、今春闘結果を反映し緩やかに増加しており、加えてパート比率の低下が安定的に賃金を押し上げている*2

https://www.dropbox.com/s/fixt1abitfo58ee/nbu_ts.csv?dl=0

*1:本推計において完全雇用が達成しているとみなす年。

*2:5人以上規模事業所に関しては、これまでみられたパート比率上昇による賃金抑制効果は、ほぼなくなった。また、グラフに採用する30人以上事業所に関しては、むしろパート比率が低下し賃金を押し上げている。

大湾秀雄『日本の人事を科学する 因果推論に基づくデータ活用』

日本の人事を科学する 因果推論に基づくデータ活用

日本の人事を科学する 因果推論に基づくデータ活用

近年、エビデンスに基づく意思決定が重要視されるが、その一方、企業の保有する人事データは、これまで必ずしも十分に活用されてこなかった。本書の著者は、市場環境や人口動態の急激な変化を迎える中、効率的かつ事業継続性のある企業組織を作り上げていくため、人事データを活用することの有効性を訴える。

基礎的なデータ分析手法とともに、人事労務、賃金制度に関するオーソドックスな理論的見解もわかりやすく丁寧に解説される。さらにフリーの統計分析ソフトフェアについても触れられる*1など極めて実務的であり、人事データにアクセス可能な職員であれば、本書の解説をもとに直ぐにでも分析ができるだろう。加えてコア人材、中間管理職の重要性、AIによるネットワーク情報の活用など現在進行形の研究課題についても触れられており、エビデンス・ベースの分析手法は、企業の問題解決のみならず、人事労務、賃金制度等の分野での今後の研究動向を考える上で必須のものとなることが示唆される。

営業社員によるゲーム理論的な利得最大化行動が人事データによって露わになり制度変更につながる件、従業員満足度調査を通じてみえてくる人事評価制度のバイアスなど、個別の結果をみているだけでも面白い。

石原千秋『大学受験 のための小説講義』

大学受験のための小説講義 (ちくま新書)

大学受験のための小説講義 (ちくま新書)

  • 同じ文章でも小説と評論では読み方が違う。評論は書いてあることが理解できれば読めたことになるが、小説は書いてないことを読まなくては読めたことにならない。
  • 大学受験の小説では、「書いていないこと」が問われ「行間を読む」ことが求められる。これは「想像力」の仕事。センター試験の小説では、出題者と〈読みの枠組み〉がズレると、全問不正解の憂き目に会うことさえある。
  • 「書いていないこと」は登場人物の「気持ち」。これにはリアリズム小説に関わる二つの理由がある。
    • リアリズム小説は目に見えるものだけを「客観的」な「事実」として書く技法により成り立つが、「事実」が人生にとってどういう意味を持つのかは人の「気持ち」(内面、自我)が決める。「事実」が人生にとって持つ意味こそ「真実」。
    • 小説の言葉はもともと断片的で隙間だらけ。読者は知らず知らずの間に言葉の隙間を埋めている。読者の解釈で言葉の隙間が埋め尽くされ、それ以上新しい読み方を生まなくなれば、それは小説の死。言葉の隙間が多く隠されている作品が古典の名に値する。
  • 小説の中で、〈モノ〉 が何の意味も持たず存在することはあり得ない。必ず何らかの微妙なニュアンスを帯びて使われる。慶應義塾大学=卒業後旧財閥系大企業に就職するエリート、女性の扱いに慣れたスマートな学生等。
  • 「気持ち」はそこにあるものではなく、「こう読みたい」という期待に沿って読んだ読者が作るもの。あらかじめそこにあるような錯覚を持つのは、「気持ち」を作る作業を読者が意識化していないため。小説は粘土のようなもので、読者はそこから好みの「物語」を読み取る。
  • フランスの批評家ロラン・バルトによれば「物語は一つの文」。その基本形は二つあり、①「〜が〜をする物語」=主人公の行動を要約したものと、②「〜が〜になる物語」=主人公の変化を要約したもの。読者が読み取る「物語」 の違いによって、主人公さえ入れ替わることがある。「小説が読める人」とは、「物語」の働き に意識的な人。一つの小説から出題者と同じ「物語」を取り出せる人が、受験小説の「出来る人」。
  • 受験小説では、小説の言葉と解答の言葉に本質的な違いがあるため、現実らしく見せた小説の表現を抽象的な言葉に「翻訳」しなければ解答が出来ない。抽象化とは、言葉から得たイメージを、二元論的な思考の枠組みによって、自分の所属している〈世界〉のどこかに位置付けること。そのためには〈世界〉が自分の手の中に入っていなければならず、抽象化とは、〈世界〉の全体像を手に入れることでもある。それは、「自分とはなにか」という問いに答えることでもあり、したがって抽象化する行為はアイデンティティの問題(自己同一性=自己と他者を区別する中で「自己とは何か」 を問う問題)をも引き寄せる。
  • 学校空間の物語は家族のメタファー(比喩)として読む。先生と生徒の関係を「擬似的な父娘の物語」として読む等。フロイト的家族は「血」と「性」によって成り立ち、子が親と「同じ」になることを「成長」と位置付ける。
  • 記号式の設問を解くための五つの法則は、以下の通り。これらの法則と消去法を組み合わせて解くのが、センター試験の小説の鉄則。
    • 「気持ち」を問う設問には隠されたルール(学校空間では道徳的に正しいことが「正解」となる)が働きがち。
    • そのように受験小説は「道徳的」で「健全な物語」を踏まえているから、それに対して否定的な表現が書き込まれた選択肢はダミーである可能性が高い。
    • その結果、「正解」は曖昧模糊とした記述からなる選択肢であることが多い。
    • 「気持ち」を問う設問は、傍線部分前後の状況 についての情報処理であることが多い。
    • 「正解」は似ている選択肢のどちらかであることが多い。ただしこの法則は、中学・高校入試国語ではそのまま使えるが、大学受験国語では裏をかかれることがある。