藤井良広「金融NPO−新しいお金の流れをつくる」
- 作者: 藤井良広
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2007/07/20
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金融NPOは、この様な地域経済にみられる「互酬」性を金融取引の世界にも形成する試みである。(地域経済の中にも、その原形的なものとして頼母子講・無尽等がある。)金融NPOの一般的な姿は、当該NPOの出資者となった個人が、その何倍かの資金を当該NPOから低利で借り受ける権利を得るというものである。つまり、資金を借りたい者は、当該NPOのコミュニティに参加することで、その権利を得ることが出来るのである。一方、出資者に対しては、低利であってもその行き先が「目に見える」ことから、その資金提供ニーズに応えることができる。この様に、金融NPOが持続可能であるためには、「社会への配当」をもたらすような事業目的が何といっても重要であり、それによって出資者と借り手の間に強い信頼関係を構築することが可能となるのである。この様な仕組みは、営利の世界における民間金融会社の融資を補完し、多様な資金ニーズに応えることを可能にする。
しかしながら、地方の農村部のような密接な人間関係*1が既に存在している場合であればいざ知らず、新たにその様なコミュニティーを構築するというのは至難の業である。特に、日本においては、個人の寄付が少ない等金融NPOの様な組織を育成しようという文化が根付いているとは言えない。また、近年新たに監督の対象とされた無認可共済のように、公共性を隠れ蓑に規制の対象から逃れ、有利な保険料で事業を拡大するようなケースもみられる。こうした現実がある中では、金融当局が金融NPOに対して無理解であったとしても、単純にそれを責めることは出来ないであろう。
とは言え、金融NPOは、社会の多様な資金ニーズに応え、富の偏在による貧困の問題を緩和していく上でも貴重な仕組みである。本書を読んで意外であったのは、こうした活動を支える専門家がかなり多く、人的基盤が充実していることであった。金融NPOが飛躍する可能性、ポテンシャルは整っている。後は、国や地方公共団体の政策によるサポート等により、それを育成する文化を社会に根付かせることが重要なのではないか。その意味では、米国や英国の経験に学ぶことから当面始めてみてはどうだろうか。そうした中で、これまでの政策メニューには無かった新たな社会政策の可能性を開くことに繋がるのかも知れない。
(注)韓リフ先生のエントリーに、著者ご本人が降臨されてますねw
*1:他にも、宗教を介したコミュニティー等がある。