- 作者: 中尾武彦
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2008/02
- メディア: 新書
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バランスがとれた内容
米国の経済政策について、政策実施の当事者との接点を持つ著者による幅広くタイムリーな紹介。内容は、基本的な経済原理を踏まえており、著者の個人的見解を極力抑制した中立的記述によるもので、比較的バランスがとれている。(他方、官僚的に抑制の効いた記述には「面白みがない」との評価もあるかも知れない。)生産性に関する議論、マクロ政策の潮流、対外関係等個別の内容についても、米国の政策担当者が何を考えているのかの情報を得るという意味で、個人的には興味深かった。
ただし、終章の日本に当てはめた議論については、自分の見解は異なる。例えば、マクロ経済政策について、「日本とアメリカの間で大きな考え方の違いはない」というのは事実とは思えない。「労働の移動や産業・企業組織の変革の柔軟性を高め、生産性の上昇を図っていく」ことの重要性を指摘しつつ、日本のサービス業のきめ細かさを評価しているが、こうしたサービス業の過剰な対応がこの業種の生産性の低さの背景にある可能性はないのか。(生産性分析では、一般に、サービスの「質」は考慮されていない。)より個人の力に重きをおく社会に変えていく、という議論(雇用流動化論)も、日本的な雇用システムの下にあっては、必ずしも生産性の上昇に結びつかないのではないか。
いずれにしても、近年の米国経済政策の動向をみる上では、コンパクトかつ有益である。近年は、ドルの基軸通貨からの転落とか、「終わりの始まり」とか、怪しげな解説を行う論者が跳梁跋扈しているが、そうした中でこそ、本書の価値は増すのかも知れない。