ラスカルの備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

高学歴化と労働者の学歴構成

 前稿では、(日本版)ジョブ型雇用をめぐる動きに関し、それが求められる背景として、これから入職しようとする日本の若年者にジョブ型への志向性がみられることを指摘し、特に医学部志望の高まりや情報系学部の人気、また後者のケースでは起業やスタートアップ企業への就職、あるいはプログラミング、データ分析等の技能を通じ就職しようとする動きがみられることを指摘した。こうした一括りに「キャリア志向」という言葉で表現できる動きに加え、高学歴化を背景に、既に働いている労働者においても学歴構成は変化しつつあり、このことも日本の雇用システムに影響を与え得る。
 本稿では、高学歴化と、労働者の学歴構成に対するその影響を確認する。

高学歴化の進展

 まず高学歴化の動きを確認する。

四年制大学への進学率は、足許2021年で54.9%に達しており、2009年には50.2%と既に半数を超える高校卒業者が四年制大学へ進学していた。過去を遡ると、1990年の進学率は24.5%であり、それまでは3割に達しない水準が続いていた。よく「バブル世代の大量採用」が話題とされるが、当該世代の四年制大学への進学率は、然程は高いものでなかったことがわかる。
 しかし進学率はそこから急上昇する。1996年には3分の1を超える高校卒業者が四年制大学に進学した。なおこの年次は、現在は40歳台前半層に当たる。また半数を超える者が四年制大学に進学した2009年の高校卒業者は、現在は概ね30歳である。

労働者の学歴構成

 つぎに既に働いている労働者の学歴構成を確認する。グラフは、年齢階級別に大学・大学院卒者の労働者構成比をみたものである*1

高学歴化の進展は30歳台までの若年層に明確に現れている。加えて特徴的なのは50歳台後半以降の高学歴化である。5年ごとのグラフの推移にはコーホート別の特徴がよく現れており、2010年に50~54歳だった層(グラフのマーカーが白色の層)の大学・大学院卒者が年齢を重ねることで、その層の高い構成比が50歳台全体に及んだことがよくわかる。
 ただし、これらの層に属する労働者は高学歴化が本格的に進む前に大学に進学した者であり、中高年層の高学歴化は今後さらに進むと予想される。
 このことは企業に対し単位労働コストの上昇という形で影響する。すなわち現在の賃金水準を維持する上で、このコストの高まりに見合う労働生産性の増加が必要になる。

賃金カーブの推移

 つぎに大学・大学院卒者について、25~29歳台の賃金(所定内給与額)を100とした際の年齢階級別の賃金(いわゆる賃金カーブ)の推移を確認する。

グラフより傾きがしだいに緩やかになる傾向、すなわち入職時の賃金が年功的に高まる傾向は平均的には弱まっていることがわかる。これを世代別にみると、先ほど取り上げた2010年に50~54歳だった層と比較して、その10歳下の層(グラフのマーカーが黄色の層)は、相対的な賃金が大幅に低下している。なおちょうどこの間が、いわゆる「バブル世代の大量採用」に概ね該当する。またこの傾向は、そのさらに下の世代に向け継続している。いかにも、中高年層世代の相対賃金の低下は見事に現れている。

 この点に関しては、賃金の平均的な上昇幅に違いはあるものの高卒者についても同様の傾向がみられる。

大学・大学院卒者の割合が増えることで希少性が高まる高卒者でも同様であることから、世代ごとの相対的な賃金の低下は、四年制大学卒業者の構成比が高まったことに対する企業側の対応を示すものとするに十分な証拠があるとはいえない*2

 コーホート別の賃金に関しては、玄田有史編著『人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか』(2017年)において、バブル崩壊後の1995~99年に学卒就職した「就職氷河期」世代は前後の世代よりも賃金水準が低く、全体の賃金押し下げ要因となっていることが指摘されている。

 一方25~29歳台の賃金に対する相対的な賃金水準という観点でその後の推移を確認すると、世代ごとの相対的な賃金水準の低下は、その下の世代に向け、その後もさらに進んでいくようにみられる。

*1:グラフのデータは、厚生労働省『賃金構造基本統計調査』の「令和2年(2020年)調査と同じ推計方法を用いた過去分の集計結果」を用いた。また当該調査では、2020年調査から調査票の学歴区分が変更されている。

*2:学歴間賃金格差は、40歳台前半層と60歳台以上では縮小しているが、その他の年齢階級には明確な傾向はみられない。また雇用システムの観点からは、賃金の分散の変動を確認することも必要である。