備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

佐藤優「国家の罠」

国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて

国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて

 検察は基本的に世論の目線で動く。小泉政権誕生後の世論はワイドショーと週刊誌で動くので、このレベルの「正義」を実現することが検察にとっては死活的に重要になる。(中略)
 ただし、国策捜査の経験が多い検察官には、事件の作りに無理があることを理解しつつも、このような形で政治の膿を定期的に出すのが特捜検察の機能という見方をしている者もいるはずだ。

 逆に私が一切妥協をしなかったらどうなったであろうか。検察は、まず、私の「チーム」さらには「チーム」加入には至らないが「チーム」の準構成員であった若い外交官、特に専門職の外交官たちを外国からも呼び出し、徹底的に締め上げただろう。
 さらに外務省内で私と敵対する人々の供述から得た、私や私の「チーム」メンバーの個人的信用失墜につながる情報を流し、メディアを通じた社会的抹殺を図ったであろう。外務省は組織防衛に汲々としていたので、検察が押してくれば、若い外交官などいくらでも切り捨てただろう。

 「これは国策捜査なんだから。あなたが捕まった理由は簡単。あなたと鈴木宗男をつなげる事件を作るため。国策捜査は『時代のけじめ』をつけるために必要なんです。時代を転換するために、何か象徴的な事件を作り出して、それを断罪するのです」
 「あなたはやりすぎたんだ。仕事のためにいつの間にか線を越えていた。仕事は与えられた範囲でやればいいんだよ。成果が出なくても。自分や家族の生活をたいせつにすればいいんだよ。それが官僚なんだ。僕もあなたを反面教師としてやりすぎないようにしているんだ」

コメント 周回遅れで読む。『時代のけじめ』をつけるために国策捜査は必要、という言葉には、不合理さを感じつつも妙に納得する。*1ただし、結果として、多くの(特に賢い)人間が、「政治的に正しい」価値基準に必要以上におもね、「内側」にある「本来的な正しさ」を追求することをやめてしまうことによる社会的損失というものは、かなり大きなもののように感じられる。それと、鉄壁のように思われてきた官僚組織が、意外にも脆いものであり、また、組織的に行政を行っているようにみえるものが、意外にも個人の力量に左右されるものであることがよく理解できた。

*1:加えて、鈴木宗男氏に怒鳴られ、無茶な要求をされ、灰皿を投げつけられた人々が、この件で溜飲を下げたであろうことも想像に難くない。