備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

浜田宏一「日本経済の諸問題とマクロ経済学」

第1回 なぜ日本経済は停滞しているのか

  • 現代経済学の特徴は、その動学的性格。
  • 「貨幣の中立性」がマクロ経済学公準
  • マクロ経済政策が経路を変えようとすれば、絶えず相対価格、資源配分にはミクロの論理が働く。だからミクロの論理と矛盾しないマクロ経済学を作る必要。
  • 国債は政府の負債ではなく、国債保有してもそれは富ではない」とするネオ・リカード命題。
  • 合理的期待による経路はあっても、長期契約の存在を軸にケインズ的な関係を復活した「ニュー・ケインズ学派」。
  • 複数均衡では、強気均衡と弱気均衡がある。これはゲーム理論における戦略補完(比較制度分析(青木昌彦)では、協力関係が組織の能率を良くしそれによって制度が変わっていく)と、戦略代替(こちらの生産が相手の生産を減らす)と関係する。
  • 統計的な因果関係は、本来の因果関係と異なる。*1

第2回 日本経済の停滞に対しどういう政策が考えられるのか

  • 古典派では賃金は柔軟であり、総供給曲線は完全雇用水準で垂直。賃金が硬直的な場合、総需要が十分でなければ失業が生じる(総供給曲線(W/P=F'(N):Fは生産関数)は、完全雇用水準で屈折)。
  • 複数均衡は、需要・供給曲線が非線形の時に生じ、弱気均衡*2から強気均衡に持ってくる経路は不明(気まぐれ、突然変異という神取道宏氏の説)。
  • 物価低下が資産の実質価値を高め、消費が増えるとするピグー効果に対し、債務者の金利負担がデフレ圧力になるとするフィッシャー効果。不完全情報下において担保制度が不可欠であり、その担保価値が下がってくると債務者には不利益となり、設備投資にマイナス。近代的に表現したものが清滝=ムーア・モデル。
  • マイルド・インフレには所得分配効果がある。不良債権処理は不可欠であるが、デフレ圧力が生じる。

第3回 国際制約下での日本経済

  • 日中貿易において、中国でしかできない財に技術進歩が起きても、両国間の相対賃金に影響はない。日本が輸出していた財を中国が輸出し日本が輸入するようになると、相対賃金に影響する。
  • ヘクシャー・オリーン・サミュエルソン・モデルでは、両国間の要素賦与率が違っても、貿易で財の相対価格が等しくなることで、実質賃金や資本収益率が両国間で等しくなる。ただし、技術水準が等しいという強い仮定が必要。
  • 輸入量・輸出量間の生産可能曲線分析によれば、中国の技術進歩は、日本の交易条件(輸入量と輸出量の比)を改善し、その場合一般に国民所得が高まる。しかしながら、伊藤・清野によるJPEの論文では、他国で技術進歩が生じた場合、かえって交易条件が悪化することを理論的に排除できない。*3
  • 実質為替レートは、両国の投資と消費によって異時点間の均衡が満たされるように決まるというのが現在の経済学の最大公約数。
  • 両国の現金残高方程式M・V=P・Q、M*・V*=P*・Q*と購買力平価P=e・P*(e:内国建為替レート)から、e=(M/M*)(Y/Y*)(V/V*)。M/M*とeの関係がソロス・チャート。マネタリー・アプローチでは、金利が上がるとVが下がるので、為替レートが切り下がる。
  • 創造的破壊論はほとんど根拠がない。

*1:ルーカス批判的には、統計的因果関係は必ずしも重要ではない。

*2:これは流動性選好、貨幣流通速度の低下に関連しているか?

*3:■[書籍 経済・社会]田中秀臣「経済論戦の読み方」*2の批判も参照