備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

鶴亀算と連立方程式(1)

 四谷大塚のカリキュラムでは、小学4年の算数でこの時期、鶴亀算を学習する。過去の公開組み分けテストの問題の中から、例として下の問題を取り上げる。なお、公開組み分けテストは入塾前の小学生も受けるもので、必ずしも塾生のみを対象としたものではない。

 アメが5個ずつ入った赤い箱と3個ずつ入った白い箱が合わせて25箱あります。新しくアメを何個か買ったので、アメを箱に入れ直すことにしました。アメをすべて取り出し、買ったアメを加えて赤い箱に4個ずつ、白い箱に5個ずつ入れ直したところ、すべての箱にちょうど入れることができました。これについて、次の問いに答えなさい。
(2)29個のアメを買ったとすると、はじめにアメは何個ありましたか。

 この問題は、1つの面積図で考えることができる基本的なものではないが、ちょっと工夫すれば、典型的な鶴亀算の計算手順に持ち込める。ただしここでは典型的な解き方をいったん留保し、まずは、大人の視点で真っ先に思いつく方程式で考える。
 箱の中のアメについて、入れ替え前と入れ替え後のアメの数(面積図の面積にあたる)を等号で結ぶ。
 5 \cdot \circ + 3 \cdot \left( 25 - \circ \right) + 29 = 4 \cdot \circ + 5 \cdot \left( 25 - \circ \right)
 通常の計算問題を少々難しくしたものと考えれば、未知数 \circをもとめることは4年生にも十分可能である。ただし、小学生の問題では「移項」という操作をしない。これは負の数が中学の範囲にあたるためだと思われるが、計算自体はやや面倒になる。
 これを少々大げさに連立方程式で表すと、未知数が3個で3本の連立方程式となる。行列表記にすればつぎのようになる。
 \left( \begin{array}{ccc}  1 & 1 & 0  \\  5 & 3 & -1 \\  4 & 5 & -1 \\ \end{array} \right) \cdot \left( \begin{array}{ccc}  x \\  y \\  S \\ \end{array} \right) = \left( \begin{array}{ccc}  25 \\  0 \\  29 \\ \end{array} \right)
 連立方程式を解く操作と同じことであるが、「掃き出し法」というテクニックを使って左側の行列を対角化する。
 \left( \begin{array}{ccc}  1 & 0 & 0 \\  0 & 1 & 0 \\  0 & 0 & 1 \\ \end{array} \right) \cdot \left( \begin{array}{ccc}  x \\  y \\  S \\ \end{array} \right) = \left( \begin{array}{ccc}  7 \\  18 \\  89 \\ \end{array} \right)
 答えは Sなので上式よりそのまま89となる。この解法は、加減算や定数倍の操作で連立方程式のゼロ点は変わらないという線形代数の閉じた性格を利用している。

 一方、鶴亀算の典型的な手順では、考え方自体がこれとは異なる。赤い箱が0個の場合から順次考え、その「規則性」をとらえるのが鶴亀算の典型的な手順になる。少し大げさに考えると、数列の問題になる。
  nを赤い箱の数とし、入れ替え前のアメの数を A^b_n、入れ替え後のアメの数を A^a_nとする。 nを0から順次上げていくと、これらは数列にみなせる。
 \left{ A^b_n \right} = \left{ 75, 77, 79, \cdots \right}
 \left{ A^a_n \right} = \left{ 125, 124, 123, \cdots \right}
数列の差は下のような初項が50、公差がー3の等差数列となる。
 \left{ A^b_n - A^a_n \right} = \left{ 50, 47, 44, \cdots \right}
この数列がちょうど29になれば赤い箱の数が決まるので、21を3で割った7が赤い箱の数となる。あとは機械的に答えをだせばよい。

 このように鶴亀算連立方程式では、同じ問題であっても解き方の背景にある考え方は全く違なる。前者は帰納的である一方、後者は演繹的である。ただし、数列を nで閉じた式に書き換えると、結局は最初の方程式と同じ式に落ち着く。
 \dot A^b_n = 5n + 3( 25 - n )
 \dot A^a_n = 4n + 5( 25 - n ) + 29
 \dot A^b_n - \dot A^a_n = 3n - 21
 この場合は、 \dot A^b_n \dot A^a_nの差がちょうど0になるところで n、すなわち赤い箱の数が決まる。

 つぎに入塾生向けの「応用演習問題集」から、小学4年生の範囲で少し高度な問題を取り上げる。

 ある動物園の入園料は、次のようになっています。大人は1人200円です。子供は1人150円ですが、子供が3人一緒に入園する場合は、子供3人で大人2人分の料金となる割引があります。(中略)このとき、以下の問いに答えなさい。
(2)大人と子供を合わせて46人が一緒に入園した時、入園料金が6950円となりました。大人と子供それぞれの人数を求めなさい。

 この問題では、まず入園料金が6950円と端数が出ることから、子供の人数は3の倍数プラス1の形で表せることに気付くことがポイントである。よって子供の人数を一端 3y+1として鶴亀算の手順に持ち込むが、ここではこれを未知数が2個で2本の連立方程式により表現する。
 \left( \begin{array}{cc}  1 & 3 \\  200 & 400 \\ \end{array} \right) \cdot \left( \begin{array}{cc}  x \\  y \\ \end{array} \right) = \left( \begin{array}{cc}  46 \\  6950 - 150 \\ \end{array} \right)
これも「掃き出し法」により左側の行列を対角化すると、つぎのようになる。
 \left( \begin{array}{cc}  1 & 0 \\  0 & 1 \\ \end{array} \right) \cdot \left( \begin{array}{cc}  x \\  y \\ \end{array} \right) = \left( \begin{array}{cc}  12 \\  11 \\ \end{array} \right)
よって、大人の数は12人、子供の数は 3 \cdot 11 + 1で34人となる。子供の人数が3の倍数プラス1になることに気づき、少々テクニックを工夫すれば、規則性による解法自体は先ほどの問題よりも容易である。

 大した内容ではないのだが、ふと思いついたので書いてみた。