備忘録

ー 経済概観、読書記録等 ー

東京大学卒業生の進路からみる公務人気の変化

 8月22日付けの朝日新聞朝刊に、本年度の国家公務員総合職試験の合格者は1,717人で、大学別合格者では東京大学の249人が最も多かったものの前年度より58人減少、記録に残る1998年以降過去最低であったことが記されている*1。また、申込者数も過去最も少ない176,730人とのことである。これらのデータは、近年指摘される「公務人気の低下」の一面を示すものとはいえる。一方で、国家公務員試験には総合職試験のほか一般職試験があり、「公務人気の低下」が事実であれば、むしろ実態はそちらに色濃く現れ、一部で採用自体が困難となっているケースがあることも考えられるが、そうしたことを示すデータや報道は管見の限りでは見当たらない。また、申込件数が過去最低水準であることは、少子化が進んだことで長期的には当然ともいえる。なお、合格者1,717人の内訳は、法文系871人、理工系587人、農学系259人となる*2。これら合格者全員が国家公務員として採用されるわけではなく、逆にいえば(理工・農学系を中心に)博士課程進学予定者が受検しているケースも多いとみられる。

 しかしながら、東大生の中での公務人気が低下していることは事実と考えられる。河合塾『2020東大合格Solution』*3によれば、東大生の進路における官公庁就職率のトップは法学部で、その割合は30%とされている。しかし、それ以前に配布された資料では同割合が41%となっており、これをみても近年の東大生における公務人気の低下は事実であるようにみられる。
 以下では、上記の事実を一次資料に遡って確認してみることとする。対象学部は、同河合塾資料に取り上げられ、コアな国家公務員志望者が多いと考えられる法学部、経済学部とした。なお、データの出所は東京大学のホームページ内にある統計資料『学部卒業者の就職後の状況』である。

https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/admissions/adm-data/e09_01.html

ただし、同サイトには2018年以降のデータが掲載されていないため、2018年から2020年までの3年分は大学案内の冊子(直近分は『東京大学 東京大学で学びたい人へ 2021』)から引用した。

https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/admissions/undergraduate/e01_06_01.html

法学部

 法学部については、まず、公務比率(就職者数に占める公務の割合)が2017年41.4%、2019年30.0%となっており、先に引用した河合塾資料のデータと一致している。数字を経年的にみると、まず「その他」の人数が2010年、2020年で飛びぬけて高く、その理由は不明である。就職者に占める公務の比率は必ずしも低下傾向にあるわけではなく、2011年の29.7%を底として2017年の41.0%までは上昇傾向にあった。ただし、その後の2年間で比率は激減、2020年にやや持ち直している。
 2012年末は政権交代があり、その後の安倍政権下において公務比率は上昇傾向を続けていたが、2017年をピークに一気に激減したこととなる。これを政治動向との因果関係として証明することはできないが、憶測的に「読む」ことは可能であり、興味を引くところである。

経済学部

 経済学部についても「その他」の人数が飛びぬけて高い年(2017年)があり、その理由は不明である。就職者に占める公務比率に特段の傾向はみられないが、2016年以前は11~19%程度で変動していた。しかし、法学部が減少に転じるよりも1年早い2017年にその割合は半減、さらに直近の2020年にも半減し、その割合は5%を切り、人数も12人と、ほぼ主要な就職コースとはみなされていない状況となっている。
 先日のエントリーでも、東大生に人気の就職先は様変わりし、特に、外資コンサルティング会社の人気が高まっている点に触れたが、こうした近年の傾向が如実に表れるのが経済学部なのだろうと思われる。なお、先に引用した大学案内によれば、経済学部の進路における「金融業・保険業」の割合は(他学部と比較し)極めて高い。